人類は農耕と牧畜を始めたことで地球上のすみずみまでも広がるほど繁栄することができました。
そこには多くの生物の中から農耕と牧畜に適した種を選び、それを飼いならしてきたという歴史が存在します。
この本ではそのような観点から「ヒトに飼いならされた動植物」を説明しています。
ただし、10種の生物の最後は「ヒト」です。
ヒトがヒトを飼いならした?
しかしそこには多くの証拠が残っており、実際にそうであると言えるようです。
10種の動植物は、イヌ、コムギ、ウシ、トウモロコシ、ジャガイモ、ニワトリ、イネ、ウマ、リンゴ、そしてヒトです。
植物は食物としての利用だけですが、動物はそれ以外にも様々な点で利用するようになりました。
イヌは狩りのパートナーとして、ウシは農耕作業にも使われますが、何より牛乳の生産に、そしてウマは移動輸送手段として非常に重要な役割を担ってきました。
イヌはセイヨウオオカミを飼いならして家畜としたのですが、それが世界のどこでいつ頃のことだったのか、まだ確証は得られていません。
オオカミの中でも人に慣れやすい性格を持ったものが人に近づき、徐々に生活を共にするようになったのでしょう。
イヌの重要な役割は、動物の狩りの時に人間の猟師と共同作業をすることです。
イヌ無しには氷河期の厳しい環境で人間は生き残れなかったかもしれません。
現在のイヌの品種の多様性は驚くばかりのものです。
しかし、DNAの解析をしてみると、見た目の変化にも関わらず遺伝子の相違は非常に小さくその差は少ないことが分かります。
実は現在のイヌの品種が現れだしたのは過去200年のことに過ぎません。
人間が何らかの目的をもって掛け合わせることで品種を作り出していったのですが、遺伝子の段階ではさほど変化はしていないようです。
ウシの野生種は今は残っていませんが、オーロックスという巨大な生物だったようです。
狩りで捕らえて食用にしていた頃には思いもよらぬことが起こりました。
その乳を飲むということが可能となりました。
そこには、ヒトの方の変化が関わってきます。
ヒトに限らず多くの哺乳類では母乳を飲む乳児の段階では乳の成分の乳糖を分解する酵素を持っているのに、成長するにしたがってその酵素を分泌しないようになります。
ところがヒトの一部にその酵素を大人になっても持ち続けるという突然変異が起きました。
彼らは乳を食料とすることができたため、カルシウム摂取が極めて効率的となり、栄養的にも優れたものとなりました。
特に現在のヨーロッパに住む人々にその変異は広がっていますが、アジア人にはあまり無いために牛乳を飲むと腹を壊す人が多くなっています。
なお、ウシは現在は人工授精がほとんどで交配の管理も人間が厳しくやっていますが、そのために優秀と言われている個体ばかりが交配させられるため、近親交配が非常に多くなっています。
このままでは種としての力が失われていくという危険性がありそうです。
イネは栄養も生産性もムギに比べて優れており、栽培も徐々に拡大しています。
栽培種には大きく2種あり、アフリカイネは西アフリカの狭い地域のみに存在し、他のほとんどはアジアイネです。
このアジアイネには2つの亜種があり、それがジャポニカとインディカです。
このどちらかが原種に近いのか、それとも別の種から独立して進化したのか、説が分かれましたが、遺伝子の解析によればこの2種は極めて近い関係にあるようです。
最近の研究によれば、ジャポニカが原種に近くそれが中国の南部から広がっていき、東南アジアでは別の野生種と交配してインディカになったということです。
さて、「飼いならされた種」としてヒトも挙げられていますが、その理由は最後に書かれています。
家畜となった動物たちは、祖先の野生種に比べて、顎や歯が小さくなり、顔が平たくなり、オスの攻撃性が減っています。
実は、ヒトでも現代人に近づくとこの特徴が顕著になっています。
これを見ると、「ヒトも自己家畜化した」と言えるようです。
それも人間社会の巨大化が進むと「社会性」が重要となり、家畜化した方が最適となったのでしょう。
やたらに他を攻撃する男性は現代には適合しないようです。
このようにヒトも社会化に従って変化していますが、家畜や農作物もヒトと併せるように共進化してきたと言えます。
変わったのは動植物ばかりでなく、ヒトの方も同様だということでしょう。
農業を始めたヒトというものが、世界を大きく変えたわけですが、それがはっきりと示されていたようです。