つい最近、「海外パッケージ旅行発展史」という本を読んだのですが、その著者の別の作品です。
「海外パッケージ旅行発展史」澤渡貞男著 - 爽風上々のブログ
著者の澤渡さんは、JALPAK創業の頃から携わり、さらに日本旅行業協会という業界団体で役職を歴任したという、旅行業界の隅々まで熟知している方です。
その著者が、今度は少し範囲を広げて、観光というもの全体についての経緯と現状、問題点と希望などを書いています。
「観光」「観光地」という言葉が広まったのは昭和初期からであったようです。
「観光」というものが広まる前の日本における旅行というものはどういうものであったかと言うと、実際に出かける人がどれほど居たかは疑問ですが、「歌枕」と呼ばれる名所を巡る旅というものがありました。
江戸時代も後半になると、神社仏閣を参拝するという旅行が庶民の間にも広く流行するようになります。
その頃になると、参拝というのもほんの口実となってしまい、主目的は道中の各地で名所を回ったり、門前町で楽しむということになっていきます。
観光地をその「観光資源」で分類しています。
(1)気候
(2)自然空間
(3)文化空間と文化遺産
(4)人工的に作られた空間
と分けられます。
「気候」というのは少し分かりにくいかもしれませんが、「避暑地」「避寒地」といえば明確かもしれません。
また、「人工的に作られた」というのは、「テーマパーク」と言えばわかりやすいでしょう。
観光地にも、変遷と盛衰というものがあります。
日本で観光地といえばまず「温泉」ですが、この温泉地にも変遷があります。
かつては農閑期の農民が療養する「湯治場」というものが多くありました。
しかし、昭和30年代に入り生活に余裕ができてくると、まず新婚旅行客が熱海や箱根、南紀白浜といった温泉に行くようになり、そこに当時としては高価な費用をかける旅館が増えていきます。
さらに、会社で行く「慰安旅行」や法人需要と称する「研修会」「取引先接待」といったものが増えていくと、それに応じた大型ホテルなどが増加します
しかし、バブル崩壊後になるとそういった法人需要は激減、それに頼っていた大型施設は軒並み経営難となりました。
2000年代初頭に多くの老舗旅館、大型ホテルが倒産しました。
その後は、日帰り温泉、格安ホテルなど、様々な業態が乱立しています。
観光といえば「地域活性化」という言葉がすぐについてきます。
しかし、旅行客が大勢来るだけでは活性化には繋がりません。
著者が繰り返し主張しているのは、「付加価値」がある旅行ができないと、すぐに客は離れていき衰退するということです。
観光というものの「経済効果」もよく考えておく必要があります。
観光客が観光地を訪れることによる、経済効果とはなにかといえば、
運送 (鉄道、バス)
宿泊 旅館・ホテル
その他 昼食、喫茶、入山料、入場料、お土産代等々
となります。
平成20年度の観光庁試算によれば、東京、名古屋、大阪の三大都市圏から観光によってその他の地方に1兆8000億円が移動したとみられるそうです。
しかし、ここで「宿泊」が入るのと入らないのでは大差ができます。
いくら格安旅館と言ってもそれなりの値段はしますので、宿泊せずに日帰りで帰ってしまう客と比べるとはるかに大きい金額が落ちることになります。
ところが、新幹線開通などで宿泊客の減少がどこの観光地でも問題となっています。
推計ですが、その地点までの往復にかかる時間以上、そこに滞在しないと旅行をした気分になれないそうです。
そうすると、1日12時間を観光に使える時間とすると、片道に掛けられる時間の最大は3時間となります。
ところが、現在では3時間あれば東京から京都まで行けます。
つまり、京都も東京からの「日帰り観光圏」とも言えるわけです。
実際に、伊勢神宮、高野山、宮島などでは宿泊客は横ばいないしは減少傾向だそうです。
このように気まぐれな客を捉えるのはなにか、そこがその地域の魅力、付加価値なのでしょう。
最後に著者が書いている「観光とは、つまるところ、訪れる人にときめきの感情を起こさせるものでなければならない」ということなのでしょう。
一見、外国人旅行客も多くなり観光立国になりそうなように見えますが、その道は長く厳しいのかもしれません。