本書出版は2006年、小泉内閣による規制緩和という名のもとに労働条件の悪化が進められていた頃でした。
雇用の多様化という美名を用いながら実際は望まない条件に追い込まれる人々が相次ぎました。
まさに、「労働ダンピング」と呼ぶのがふさわしい状況でした。
それから10年以上、状況はさらに悪化の一途をたどり、格差拡大が大きな問題となっていますが、格差をもたらす主因はまさに雇用のダンピングでまともな生活も送れないよう収入しか得られないようになったためです。
本書第1章に書かれている「今なにが起きているか」
現在から振り返ればまさにその当時が転換点であったかもしれません。
ちょうどそのころに「雇用の融解」が起きていました。
正規雇用で賄われていた業務を派遣や請負化を進め、労務費削減を目指す動きが蔓延し、それに伴い正規雇用者の給与も下降、さらに長時間労働化も止められなくなりました。
「正規も地獄、非正規も地獄」(この句は本書中にはありません。自分で作りました)
規制緩和と称する改革でどうなるか、すでに当時は明確な実例が存在しました。
ニュージーランドでは、改革導入の前には「アウォードシステム」という制度が機能し、労働側の意見を十分に取り入れた状況が存在していたそうです。
しかし、経営側のコスト削減の要望が強まり、1991年に雇用契約法が施行され、アウォードシステムは一気に壊滅してしまいました。
労働組合もあっという間に弱体化し、女性や先住民の労働条件は悪化しました。
このような状況を見て、1999年の選挙で雇用契約法を推進した国民党は大敗し労働党などが政権に復帰、政策を変更したそうです。
日本の雇用環境悪化を明らかに推進しているのが、公共セクターです。
公共サービスを担う国や自治体が他に先駆けて非正規化を進め、人件費削減を強力に推し進めています。
それまでも臨時職員化を進めてきた自治体が、さらに請負、委託へと民間に先駆けて実施してきました。
何にでも競争入札を実施し、少しでも安いところに請け負わせることがこのような事態につながりました。
政府や自治体が公正な労働基準というものを確立しなければ悪質業者の取り締まりもできないでしょう。
まあ、政府が一番悪質ということは間違いないのかもしれません。
格差拡大ということが大きく言われていますが、それをどうにかするためには、この「労働ダンピング」という問題をなんとかしなければならないのは当然です。