最近読んだ「ピケティ入門」という本が面白かったので、その著者の別の本を読んでみました。
「ピケティ入門 「21世紀の資本」の読み方」竹信三恵子著 - 爽風上々のブログ
とは言っても竹信さんの本としてはこの本の方が古いものです。
2009年の出版で、同年の労働ペンクラブ賞を授賞されています。
内容は急激に悪化している労働事情についてのルポであり、読んでいて気分が悪くなるほどの状況の紹介です。
最近はよく「ブラック企業」などということが言われていますが、この本を読んでいると日本中の企業、そして役所なども皆「ブラック企業」なのではないかと思います。
バブル崩壊後の不況の中で、日本企業は2002年以降特に「人件費削減頼みの経営」に陥っています。
そのためわずかに経営が上向いていても、それが労働者の苦難の賜物であるとは思わず、構造改革や経営努力のためだと言うのが政治家や経営者ですが、実は労働者の苦痛以外によるものではありません。
その結果、国民の収入も減少しているために消費が活発化するはずもなく、消費不況が続いています。
そのため、さらに人件費削減に走る企業が相次ぎ、ますます労働環境の悪化を招いています。
労働者の苦難はまず、派遣労働者と言われる人たちに降りかかりました。
彼らは派遣切りをされるとすぐさま住まいすら失います。ホームレスに直行せざるを得ず、2009年にはそういった失業者を対象とし派遣村といった場所の提供も行われました。
派遣労働者は雇用されていたとしても非常に弱い立場で働かされており、職場で怪我をしてもまともに対応してもらえないという状況も生まれています。労災を避けるという派遣先会社の都合だけを優先し、なかったことにされるということもあります。
そんな中で怪我もまともに治療されない結果身体を壊して仕事を失う人も出ています。
小売業などでは、ほとんどの店員がパートやアルバイトとなりました。
そのため、顧客と対応するのもほとんどが非正規社員ですが、客の側からすればどれも同じ社員に見えます。
しかし、その接客能力は低いものであり、中には客の要望をまともに店側に取り次ぐことができない店員も居るとなると、客の店に対しての印象も悪化するばかりです。
客も品物の価格の安さばかりを求めるとこのような店員ばかりの店ができてしまいます。
低収入の非正規職員が多いというのは、民間ばかりではありません。
役所などの公務員が勤務していた現場でも非正規職員が増え続けています。
自治労の調査によれば全職員に対する非正規職員の割合は1984年には5%以下であったものが、2006年には20%近くにまで増加しています。
彼らの多くはフルタイムで正規職員と同様に働いていても年収200万円未満の低収入です。平均年収は下がり続けています。
正社員の環境悪化も増すばかり、さらに「名ばかり管理職」という人件費削減策が横行し、入社後わずかで管理職とされて残業手当の支給をされず、さらに毎日長時間の勤務で身体を壊す人たちが続出です。
病気になっても雇用を継続されると言ったかつての慣行は無くなり、病気になれば退職を強いられるといった状況にもなっています。
かつては労働者の権利を守るという立場であった労働組合も変質してしまいました。
会社がつぶれれば労組も無くなるという危機感から、労働条件を悪化させても会社業績の向上に協力するというのが労組の主流となってしまいました。
ヨーロッパでも労働者解雇がしやすいと言われているのがデンマークです。
しかし、そこには日本とは全く異なる労働者保護の仕組みがあります。
正当な理由があれば解雇は可能なのですが、そのためには再雇用のための職業訓練費用の会社負担が必要であり、さらに最長4年の失業給付が存在します。
そういった安全ネットなしに解雇や労働条件緩和といったところだけを真似しようとしているのが日本です。
かつての日本は安定した職を持ち収入も多い男性が安全ネットであり、女性や若者が低収入であっても一家としては収入を維持できるという体制でした。
しかしそのような家族というものが崩れていったのに加え、男性の安定収入も怪しくなってきました。
このような社会を救う道はあるのでしょうか。