雇用や医療・介護等、いろいろな社会システムというものがどんどんと壊れて行くように感じられます。
そういった状況を経済誌の記者である著者の風間さんが多くの取材を重ね実態を明らかにしようとする、なかなかの労作かと思います。
また、本書執筆当時は「週刊東洋経済」という経済誌に属していましたが、その後朝日新聞社に移籍したそうです。
本書出版の3年前に「雇用融解」という本を出されたそうですが、それに引き続いての状況ということで、本書の第1部は「雇用融解第二幕」として書かれています。
そこでは主に派遣労働者と呼ばれる人たちの実状が描かれており、またそこに付け込んで事業を進めている派遣会社についてもふれられています。
本書の扱っている、2010年以前はアメリカの不況の波を被って製造業が落ち込み、多数の派遣切りの状況を生み出していました。
派遣先企業はその労働者の行く末などにはまったく責任を負わず、派遣会社も最低限の賃金支給で叩き出すという有様で、失職した人々はすぐそのまま生活に困窮するということになってしまいました。
ちょうどその当時は民主党に政権が移った頃だったのですが、自公政権よりは労働者寄りと見られた民主党でもそのような政策は取られず、党内の意見集約もできないまま対策が取られなかったようです。
南米からの日系人労働者は家族ともに来日している人が多く、その失業はより深刻な事態となりました。
子供たちはポルトガル語などの教育も受けていないために帰国も難しいといった事情もあったようです。
事実上の低賃金労働者である外国人研修生の実態もひどいもので、人権無視の行為が広くはびこっていたようです。(なお、これは現在でも大きな問題として続いています)
そして、本書はその「融解」がさまざまな領域にまで波及していき日本の社会システムが総崩れになっていくとして、第二部に「融解連鎖」という表題をつけて記述しています。
そこには「居住融解」(敷金礼金ゼロという甘言の裏で横行する違法行為)
介護事業の行き詰まりや医師看護師の不足を記した「医療介護融解」
病院が無くなり地方には居住もできなくなる「地域社会融解」
最後に役所などの雇用も崩壊しているとして「公共現場融解」と続きます。
どれも非常に大きな問題ですが、後半部分は一つ一つはややボリュームに欠けあっさりとしすぎているかもしれません。
まあ、それぞれが1冊の本にでもできる程度の問題ですので、例として挙げた程度に留まるのもやむを得ないかもしれませんが。
このように多くのシステムが崩壊しつつあるのですが、政府の動きは企業業者側に立ったものが多く、そこで苦しんでいる人々のために政治をするというものではありません。
この本の刊行後に安倍内閣が生まれました。さらにひどい状況になっているわけです。
著者もさらに多くの告発を続けているのでしょう。
それでも少しも良くならないのが日本社会なんでしょうか。