爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「南海トラフ地震」山岡耕春著

この次の大規模地震南海トラフだとよく言われます。しかしその予測される全体像は東日本大震災などから連想されるものとは少し違うようです。

その差が被害の拡大につながる危険性もあります。

 

駿河湾から四国沖まで延びる南海トラフでは、これまで100年から200年の間隔で巨大地震が発生し、広い範囲に大きな被害をもたらしてきました。

前回の昭和南海地震は1946年に発生しましたので、次の大地震発生は確実に近づいています。

ただし、その間隔は必ずしも一定ではなく、100年立たずに発生したこともあれば200年近く発生しなかったこともあり、最大100年のズレが有り、すぐ近くに迫っているか100年後かでは社会的な影響には大差があります。

そこをどう考えて対策をしていかなければならないのか。難しい問題です。

 

2011年の東日本大震災東北地方太平洋沖地震)はマグニチュード9.0という大規模なものとなり、地震研究者たちも大きな衝撃を受けました。

この地域の地震としてはM8程度のものが予測されていたのですが、震源域が拡大し断層の大きさが東西200km,南北500km,ずれの大きさが50mというものになったためにM9にまで拡大しました。

南海トラフ地震もどこまで同時に断層破壊が起きるかによってMの値も大きく変わります。

 

南海トラフは、フィリピン海プレートが沈み込んでいる場所ですが、東北地方太平洋側のように深い海底の溝(日本海溝)とはならず、緩やかな地形となっているためにトラフ(桶)と呼ばれます。

同じくフィリピン海プレートが沈み込んでいても、九州から沖縄にかけての地域は深いために南西諸島海溝琉球海溝と呼ばれています。

こういった沈み方の差は大地震発生の際の揺れ方などの差にもつながり、東日本大震災の被害の出方とは異なるということが予測されます。

 

東北地方太平洋側の日本海溝沿いのプレート境界では、M7程度の地震はしばしば起きており、それが歪みの解放にはつながらず結局はM9の大地震になったということがありますが、南海トラフでは普段の地震活動は低調であり、M7を超えるものも殆どないという特徴があります。

そして、いきなりM8クラスの大地震が来るので、警戒感が無いということです。

これは、普段はプレート境界面の上盤の地殻がフィリピン海プレートとがっちり固着しており、それがずれる時には一気に巨大地震になるためと考えられます。

 

また、震源域との距離が東日本に比べてかなり近いということもあり、地震の震度が強いところが多くなります。

東日本では揺れによる被害は少なく多くは津波によるものでしたが、南海トラフ地震では揺れによる被害が起きる危険性もあります。

さらに、津波の到達時間が短いということもあります。

東日本では津波の第1波が最も早く到達したのは釜石ですが、それでも約30分後でした。

南海トラフでは、最悪のケースで地震から3分で津波が来る場合もあります。

 

さらに、地震で被害を受ける地域の人口が東日本に比べてはるかに多いという条件があります。

東日本大震災で被災した青森から茨城までの県の人口を合計すると、980万人。日本全体から見ると13分の1です。

しかし、南海トラフ地震で被害を受ける危険性がある、静岡から鹿児島までの府県の人口合計は3500万人、全国からみて5分の2です。

これは、地震が起きて被災した場合に救護に当たることができる無事な人口が少ないということを表しています。

つまり、東日本大震災の場合は被災者側980万人に対して、残りの1億1700万人が救護支援に回ることができたのに対し、南海トラフ地震の場合は3500万人の被災者を残りの9200万人が助けることになります。

相当条件が悪いということが分かります。

しかも、被災地の多くが太平洋ベルト地帯という産業、交通の要所となります。

産業への影響も大きく、さらに新幹線、高速道路の真ん中が寸断されると言う大変な事態になります。

 

著者がまた危惧しているのは、「海抜ゼロメートル地帯への津波被害」です。

これはいまだ日本列島が経験していない災害の形です。

これまでの大地震では、関東大震災の火災、神戸淡路地震での建物倒壊、東日本大震災津波と、大きな被害を出す場面がそれぞれ違ってきました。

そのため、その後の防災もそれを意識して行われ、防火、建物強度増強、津波対策と考えられ実施されてきました。

しかし、「これまでに起きていない災害」には警戒が不足しています。

この次の南海トラフ地震では、広がってしまった「海抜ゼロメートル地帯」への浸水の被害が大きくなるのではとしています。

特に、この地域では濃尾平野に広がっている海抜ゼロメートル地帯です。

もしも堤防が揺れによって破壊されると、津波自体はさほど高くなくても速やかに浸水が広がり被害を受けることがありえます。

 

南海トラフ地震ではこれまでの歴史でも富士山の噴火と連動するということが起きていました。

この連動の理論的な解析はまだ不明ですが、危険性はあります。

これまでの噴火では、宝永型の火山灰を多く吐き出すものばかりでなく、それ以前のような溶岩流が大量に流れ出る場合もありました。近辺の被害としてはこれの方が厳しく、もしも南側に流れ出た場合は新幹線や高速などの交通が壊滅的に破壊されるかもしれません。

さらに、これまでは起きていませんが「山体崩壊」と言う現象が起きるかもしれません。

 

 

内陸型の断層地震は、どこでも起きる可能性があるとはいえその頻度は低いものです。

しかし、プレート境界型の地震は必ず定期的に発生します。

南海トラフ地震が来るまで、短ければ10年ですが、長ければ100年かもしれません。

100年先なら自分には関係ないやというのが普通の人の考えでしょうが、それで済まさずに対策を考えておくべきでしょう。

 

 

南海トラフ地震 (岩波新書)

南海トラフ地震 (岩波新書)