爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「夫婦格差社会 二極化する結婚のかたち」橘木俊詔・迫田さやか著

京都大学名誉教授で現在は同志社大学の橘木先生は格差に関する論文を多数発表されているようですが、個人の格差だけでなく家族全体の格差も大きいということで、夫婦単位の格差の問題を書くにあたり女性の意見も取り入れたいということで指導されている同志社大学大学院生の迫田さんと共著という形で本書を出版されたということです。

一昔前には男性の収入が十分に多ければ妻を家庭に留め家事に専念させることができるという社会通念があった時代もありましたが、昨今では夫の収入の多寡に関わらず妻も仕事を持つというのが普通になってきています。それも高収入の男性の妻はやはり専門職・管理職等で高収入ということが多いようで、それを合わせた家族全体としての収入はかなり高くなるということになります。
一方、低収入の男性の場合、生活のためにどうしても妻も働かなくてはいけないということが多いようですが、その場合も非正規雇用などが多いために収入も低く夫妻を合わせてもやはり低収入ということになります。

夫の収入が多ければ妻は働かないというのは「ダグラス・有沢の第2法則」と言うそうですが、1982年の調査では確かにその傾向があったようです。しかしその10年後の調査では早くもそれは崩れ始め、夫の年収が上がるにつれ妻の有職率は若干は減るものの顕著なものではなくなったようです。
なお、興味を引くのは夫が年収100万円以下という超低所得層でも妻が働かない率が増えているということで、ここからもこの法則の有効性はなくなっているそうです。

夫婦がそろって高収入という場合が有り勝ちだということですが、この要因としては「どのような男女が結婚して夫婦になるか」ということが根本にあります。結婚相手を決める基準には「相補説」と「類似説」というものがあり、自分に無いものを相手に求める相補型と、自分に似たような相手を求める類似型があるようです。
女性の社会進出が不十分であった時代には女性に大きな経済力を求めるということは少なく、男性が高収入であった場合は特に女性に家庭での家事労働を求める相補型というのが多かったのかもしれませんが、現在ではそれよりも同じような職業・環境で働く男女が結婚する方が多くなったということです。

ただし、いまだ以前の習慣に影響を受ける人も多いのも事実であり、未婚の男性で結婚相手に求めるものが「経済力」というのは少なく「容姿」というのが多いということです。なお、女性は結婚相手の男性に「経済力」を求めるものが大多数だったのですが、最近では「男性の容姿」を重視するという傾向も出てきているとか。

結婚する男女の学歴・職業というものも似たものになる比率が増加しているそうです。以前は男性が大学・大学院卒でも女性は高校・短大卒という例も多かったようですが、最近は大学・大学院卒同士、高卒同士という夫婦が多くなっているようです。これは女性の高学歴化が進んだこともあるのでしょう。
また、大学卒といっても大学間の格差も広がってきており、旧帝一工(こんな言葉があるんですね。初めて聞きました。旧帝大と一橋・東京工大だそうです)卒の女性はほぼ相手もその卒業生だそうです。その他の国立大、私立大もそれぞれそのランクの中で相手を見つける場合が多いということです。

その結果もあり、高学歴で高収入の職業に就く男性の妻には同様の職業の女性ということが多いということです。こういった夫婦を「パワーカップル」と言うそうです。

それに対し「ウィークカップル」と呼ばれる夫婦も多数存在します。低収入の職業に就いている男女ですが、結婚しているだけでもまだマシかも知れません。多くの非正規労働の男性は結婚することをあきらめているという話も多く聞きます。
また、結婚はしたものの子供を持ったあとに離婚ということもよくある例ですが、最近はほとんど子供の親権は母親が取ることが多いそうですがその母子家庭というのはすぐに貧困家庭になってしまいます。父親から子供の養育料を貰う比率も少ないものですが、これも母親の権利意識が低いということよりも「父親も低収入なので無理」という事情の方が多いそうです。

年収別の結婚状況を調査した結果を見ると、「年収300万円」というのが大きな壁になっているようです。それ以下の男性では20・30代で既婚率が10%未満、恋人が居るというのも20%程度でほとんどの人が女性と付き合うことすらできないままだそうです。
なお、女性の場合は300万円の壁というものははっきりとはせず、まだ男性の経済力頼みという感覚が強く残っているようです。
逆に、30代女性で年収500万円以上という女性としては高収入の人は既婚率20%と低いものの恋人が居る比率は高いそうで、面倒だから結婚はしないという意識が強いのかも知れません。

なお、離婚に際しては女性の経済力が強いほど女性が我慢せずに離婚に踏み切るのではという観測もありますが、実際は低収入の女性のほうが離婚率が高いそうです。ヨーロッパでは違う傾向が見られるそうなので、日本ではまだ高収入の人々の中に離婚を不名誉と考える意識が強いのかも知れません。また、低収入女性の夫はやはり低収入の場合が多いということで、どうせ一緒に居ても仕方ないという意識もあるのかもしれません。

日本国内でも意識の地域差はかなりあるようで、よく言われることですが「娘を東京の大学に進ませたらそのまま東京の会社に就職して結婚もせずにいる」という話は実際にかなりあることのようです。ただし、それが本当に「都会」のためか、東京そのものの影響かなど、いろいろな要因があることですので説明は難しそうです。

なんとなくそう思っていたということが実際にデータで示されてしまったなというのが読後感です。自分たち夫婦は結局妻が一度も働きに出たことがないという非常に古風な夫婦だったのですが、娘などは夫婦揃って会社務めをしています。どちらが良いということは言えないのでしょうが世の移り変わりなんでしょう。