図書館でこの本を見て借りてきたのですが、よく見なければ分からなかったのが、著者の倉持さんが(出版当時)中学生だったということです。
一見したところ本の構成から字面を見た感じでもまったく普通の文系の学術研究の発表といったもの(ただしちょっとくだけた)でした。
著者の経歴などを見てみるとそれもうなづけます。
倉持さんは小学校の時に「図書館を使った調べる学習コンクール」の小学生の部で文科大臣賞を受賞し、「桃太郎は盗人なのか」という題で本を出版したそうです。
そして中学の時にはそのコンクールの中学生の部でやはり文科大臣賞を受賞しました。
それを本にしたのが、この「桃太郎は嫁探しに行ったのか?」というものです。
調査手法はまったく常道に沿ったもので、この自分で定めた目標に従い必要な文献を検索し各地の図書館から取り寄せて調べるといったものです。
その参照文献の評価も申し分ないようです。
なお、倉持さんが中学生の頃がちょうどコロナウイルス感染が猛威をふるっていた頃で、文献があると分かった図書館が休館中であったりと思わぬ障害も発生したようですが、それを乗り越えて結果をまとめました。
桃太郎という昔ばなしには多くのパターンがありますが、その中に「お姫様」が出てくるものがわずかながら残っています。
その他の点も含めて全国の桃太郎話を分類するということを行ないました。
一般形(鬼退治)、山行き型、逃鼠譚型、半分型、等々の型分けが研究書にも記されているのですが、倉持さんもほぼ同様の分類を自力で行なっていたということが確認されました。
そして、残っている数は非常に少ないのですが、お姫様が出てきてそれを嫁として連れ帰るという話がこれらの原型ではないかと考えます。
柳田國雄の著書にも妻まぎというものの重要性が強調されていたため、柳田國雄の資料が集めてある柳田國雄館も訪ねその学芸員の人に話を聞くのですが、その所在地が長野県飯田市。すごい行動力です。
他の人の著書にもやはり昔ばなしの主人公の行動目標としては宝物を取ってくるというより妻を探しに行くという方が一般的ということを見つけます。
やはり桃太郎の話も原型はそちらではなかったのか。
それが子供向けの話として一般化された時にその部分を削られ、宝物を持ち帰るという形にされたものと推測することとなります。
なお、桃太郎伝説の発祥の地はどこかということにも少し触れてありますが、現在それを主張する地域がいくつかあるものの、どれも町おこしと絡めての運動のようで、こじつけではないかと感じています。
ただし、実際にその関係の人と会っても内心では思っても口にはしなかったということで、これも大したものです。
驚くほどの考察と文献を捜査する能力、その他非常に優れたものを見せてくれており、末怖ろしい、いやいや末頼もしい著者でした。