爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ことばでたどる日本の歴史 幕末・明治・大正篇」今野真二著

今野さんは日本語学が専門ということですが、歴史にも深い造詣がおありということで、歴史を「ことば」すなわち文献や史料で詳細にたどるということをされています。

 

歴史を簡潔に記載するなら不要なのですが、やはり原資料を基に示すとまた新たな発見ができるかもしれません。

 

そういった趣旨で前に「ことばでたどる日本の歴史」という本で江戸時代以前の歴史を描いたそうですが、幕末以降となると対象となる文献数が格段に増加します。

室町時代以前は残っている史料数はそれほど大したものではなく、歴史研究者にはだいたいの史料はおなじみという状態になっているのですが、江戸時代以降はまだまだ多くの文献が眠っている可能性もありますし、現れているとしてもとても誰もが同じ文献を把握しているとも限りません。

というわけで、本書はインターネット上の情報を「ウェブ」で捉えていくのと同じように「蜘蛛の巣」を意識して書き進めたそうです。

 

まああまり一般的な歴史書にはならないのかもしれませんが、一つの方法として面白いのかもしれません。

 

 

幕末期には諸外国の艦船が次々と来訪するとともに、日本から漂流などで海外に渡った人が出てきました。

彼らもその先で生活していく上で当地の言葉を習得していくことになります。

その一人が有名なジョン万次郎、中浜万次郎ですが、帰国後に日本最初の英会話教本とも言うべき「英米対話捷径」を刊行します。

you の訳語として、「アナタ」「オマエ」が使われているのですが、ところどころに「オマン」とも書かれており、彼の故郷の高知の方言が出ているところがあります。

また、「do」の読み方として、「ヅー」と使われているところがあります。

「ズ」と「ヅ」は現代日本語では共通の発音ですが、当時の土佐では使い分けがされていたようです。

他にも濁点の付け方がかなり違っており、「良き日でござる」と書くべきところ「ごさる」と書かれているところがあり、土佐方言が当時とはかなり変わっていることが分かります。

 

明治20年頃から「言文一致運動」というものが起こりました。

これは「言」すなわち話し言葉と「文」書き言葉を一致させようというものですが、あくまでも「書き言葉において」でしかありません。

つまり、書く文章を話し言葉に合わせるように平易にしていこうというもので、間違っても「話す言葉を文語を参考にして格調高くしよう」などと言うことではありません。

その主な部分が、「漢語」の使用を減らしていこうということになります。

当時のより過激な方向では仮名文字だけを使ったり、ローマ字化しようとした人々もいましたが、そこでは漢語はさらに使えなくなりました。

漢字を使わないということは、かなりのところで漢語を使わないということであり、それはそれまで長く模範としてきた中国というものから離れようとする意味があったということです。

 

「ことば」そして「文献資料」というものから歴史をしっかりと見直す、それも重要なことなのでしょう。