「化学物質」というと何か恐ろしいものという感覚を持つ人もいるかもしれませんが、元素が結合して成り立っている物質とすれば生物も含めてすべてが化学物質と呼ぶことができます。
とはいえ、毒性のある物質、環境問題を引き起こす物質というものも存在し、それについてはよく知っている必要があるわけなので、様々な物質についてコンパクトにまとめています。
その方針に従い、第1章「事故・犯罪と化学物質」第2章「環境問題・対策と化学物質」第3章「人体、空気・食物・水と化学物質」第4章「まだある身近な化学物質」というカテゴリーに分けて記述されています。
なお、編者の左巻さんは多くの科学啓蒙書を書いていますが、一色さんも科学リテラシーについて広める活動をされており、多くの専門家に執筆を依頼しています。
「ニカド電池」という名前は聞いたことがある人が多いでしょうが、これはニッケル・カドミウム電池の略称です。
このカドミウムという物質はこのような有用な使い方もあるのですが、毒性もあり工場で微粒子を吸引することで中毒を起こすこともありますし、もっと問題なのが鉱山から廃棄されていた廃液が農作物に含まれて中毒を引き起こしたことでした。
富山県などで患者の出たイタイイタイ病というのがその中毒症状です。
現在でもカドミウムが土壌中に多く含まれる場所があり、そこの農作物はカドミウム含量が多いということがあります。
乳酸は人体内でも化学反応の結果生成されることがありますが、これが「疲労物質」であると長く言われてきました。
筋肉収縮の際のエネルギー源として、グリコーゲン(糖)の分解を行なうのですがその際に出てくる乳酸が蓄積することで疲労すると考えられたのでした。
しかし2001年になってニールセンらの研究で細胞外に蓄積したカリウムイオンが筋肉疲労の鍵物質であることが分かりました。
筋肉が収縮する時にカリウムイオンが細胞外に出るのですが、これが筋肉の収縮能を低下させます。
それは筋繊維における活動電位の増幅に関わるナトリウムチャンネルを阻害することによると考えられています。
なおその弱められた筋肉に乳酸を添加すると従来の説と逆に筋肉の回復が見られるそうです。
左巻さんの執筆箇所ではトルマリンのマイナスイオン発生、チタン・ゲルマニウムの健康効果といったニセ科学について触れられています。
いずれもまったくその科学的証拠は見られないもので、それに高額な金を支払うのは間違いでしょう。
本書内容は一般の人が知っておけばかなり役に立つだろうということなんですが、ただしそういった一般人がこの本を手に取るかというとどうも疑問です。
そういった人たちが取っつきやすい雰囲気ではないように感じます。