爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「IT汚染」吉田文和著

「IT汚染」とはちょっと広い範囲の言葉のようですが、ここでは「半導体企業の製造工場などの環境汚染」と「IT機器の廃棄」の問題を扱っています。

 

というのも、やや古い出版で2001年の発行ですので、まだ日本国内でも半導体企業が製造を盛んに実施しており、そこからの環境汚染も問題となっていました。

現在では多くの製造企業は海外との競争に敗けて中止しているので、かえって日本では汚染は減っているかもしれません。その分、海外に汚染が広がっているのでしょうが。

 

かつては、IT企業といえばクリーンなイメージで、工場も清浄という思い込みがありましたが、実際は非常に大きな環境負荷をかけているのが実情です。

 

特に、半導体製造の工場では、多くの環境問題との関わりが存在します。

まず、半導体製造自体に非常に多種多様の化学物質が多量に使われているということです。

エッチング工程やイオン注入工程というものがあり、どちらも化学反応を起こしやすい強いラジカルを生成します。そのために、毒性も強いということになります。

また、半導体製品の性能を上げるためには何度も洗浄が繰り返され、そこには各種の有機溶剤やフロン、超純水が使われています。

また、製品あたりの水の使用量も他の産業よりもはるかに大量です。

このように、半導体企業は決して環境に優しくなどないということです。

 

工場内の作業員の環境も決して良いものではなく、病気になりやすいという噂も蔓延しています。

徐々に中国や韓国、東南アジアにそれらの工場が進出していますが、その地では従業員の健康管理の意識も低く、病気になれば退職といった状態が見られます。

 

日本の工場はかつては国内生産量も多く繁栄していましたが、その後は海外との競争に敗れて撤退していきました。

その後に残されたのが、土壌や地下水の汚染です。

トリクロロエチレンや、テトラクロロエチレンといった有機溶剤が地下水を汚染しているとして問題になる例が続出しています。

地下水を飲料に使っている地域以外ではあまり関心を呼ばないためか、問題化することが少ないのですが、かつての工場付近では多数の汚染例が見られます。

 

パソコンを始めとするIT製品の廃棄物も大きな問題となっています。

そこには、鉛、塩ビ、カドミウム、水銀、クロムといった有害物質が含まれているのですが、これらを効果的に処理する体制にはなっていません。

リサイクルするという建前があっても、それらのシステムは上手く働かず、多くの廃棄品が中古と称して途上国へ流出してそこの環境を破壊しています。

 

日本の家電リサイクル法は、廃棄時に消費者が負担するという建前のために、違法投棄が横行しています。ヨーロッパなどのように、製品販売時に廃棄費用も上乗せして取らなければならないのですが、日本ではメーカーや販売者の都合を優先してこうなってしまいました。

一刻も早く法改正が必要です。

 

そのような廃棄物対策の強化とともに、まずIT機器の構成をできるだけクリーンにすることが必要です。リサイクルできないものや有害物質はできるだけ使わないという方向に進めるべきです。

 

この本の主張が何も生かされないまま、現在に至りスマホなどの状況はさらに悪くなっているようです。

 

IT汚染 (岩波新書 新赤版 (741))

IT汚染 (岩波新書 新赤版 (741))