爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「『右翼』の戦後史」安田浩一著

右翼と言えばいろいろなイメージが湧いてきますが、かつての右翼テロで暗殺をしたり、街宣車で大音量で軍歌などを流していたり、また最近ではネトウヨという存在もありました。

しかしそれぞれがどういう系譜でつながっているかということも分からず、何やら危険そうで調べることすら恐ろしい感じもしていました。

そういったものを教えてくれるのが本書かもしれません。

 

「戦後史」と題名にありますが、本書記述は戦前の「日本右翼の源流」から始まります。

血盟団から右翼テロといったことを知らないでは戦後右翼に話を進めることもできないでしょう。

しかし敗戦により戦前の右翼の系譜は断絶し、多くの人々が自決をしました。

 

ところが最初は右翼的なものを弾圧したGHQソ連などの共産勢力との緊張が高まると手のひらを返して日本を反共勢力の拠点としようとし、右翼も利用する方向に転換します。

そこでいう右翼とは戦前の正統派とは違ったもので、ヤクザ系右翼と言われたり、社会主義者が転向した右翼であったりというものだったようです。

戦前の右翼は当然ながら反米ですが、戦後は親米となります。

そこで共通するものは反共だけなのですが、それを成し遂げるためと合理化してアメリカの力を借りるとしたものの、実際にはアメリカの意のままに動くだけになりました。

そして日本の政治権力とも協力体制となり、ここに政府、暴力組織、右翼が交じり合った勢力となっていきます。

 

左翼の学生運動が盛んとなった時期にはそれに対して右翼の学生組織も出来上がってしまい、新右翼などとも言われました。

ちょうど三島由紀夫楯の会で活動していた時期とも重なりますが、互いに反発し合う存在だったようです。

 

現在は右傾化が進んでいると言われていますが、ここではかつてのような行動右翼街宣車で暴れ回るような連中などとは異なり、「背広を着た右翼」といった勢力が力をつけてきます。

宗教右派と呼ばれる人々、そして日本会議という組織です。

自民党の中にも強力なシンパを育て、実際の政策にも浸透してきます。

その一方で行動右翼や伝統右翼などという人々は徐々に衰退していきます。

 

ネット右翼、いわゆるネトウヨも一気に燃え上がり跋扈していましたが、今は少し下火となっているようです。

しかし現実に力を持つ右翼である日本会議などとは相容れない存在であり、互いに反発し合うもののようです。

 

世界各国に右翼というものは存在しますが、それぞれの国情でかなり相違があります。

欧米では有色人種や移民を排斥するというネオナチが右翼というイメージですが、南米やアジアでは富裕階層の利益を守る軍事政権が右翼とされました。

それでも共通するのは、保守的、復古的、国粋的というものですが、中でももっとも共通するのは「反左翼」です。

日本の右翼の特徴的なところは、天皇崇拝というところであり、様々な右翼があってもどれもその点は共通しています。

ネオナチには絶対君主の思想などはありませんが、日本の右翼は「天皇あっての右翼」だということです。

 

右翼が政治的にも力を持っているということですが、どうも違和感があるのは自民党右派という連中が本当に「天皇崇拝」の気持ちを保っているのかというところです。

どうも自分たちの心中ではそんなことは無く、都合の良い政策を進めるために支持者を増やすだけの目的で右翼を装っているだけのように見えます。