著者は古代ローマ史が専門の歴史学者ですが、その時代にとどまらず古今東西の歴史上の人物で勇気、寛容、先見性が優れていたと感じる51人を選び、その事績と優れた面を紹介しようという本です。
選ばれているのはギリシャローマ、西欧だけに止まらないため、あまり知らない人も含まれています。
また、歴史の大きな流れによって自らの意とは異なり別の意味で有名になってしまった人物もあるようです。
前者の例が(あくまでも私の知識の範囲で)、ハルシャ・ヴァルダナ、アベラール、アル=カーミル、パール・サウマー、シヴァージー、オランプ・ド・グージュといった面々。
そして後者の例が、ペイシストラトス、クラウディウス、テオドラ、フリードリヒ2世といったところでしょうか。
シチリア国王にして神聖ローマ帝国皇帝でもあったフリードリヒ2世は無血十字軍と言われる、交渉によってエルサレムを取り戻したことで知られていますが、その交渉相手がアル=カーミルだったそうです。
フリードリヒ2世はシチリアで生まれ育ったため、当時はイスラム教徒なども含む多数と付き合いがあり、ヨーロッパ諸語ばかりでなくアラビア語にも通じていたそうです。
そのフリードリヒを信頼し交渉をまとめたのがエジプトのスルタン、アル=カーミルで、イスラム教徒からは裏切り者と見なされても国力の回復のためにエルサレムのキリスト教徒への時限回復を認めたのだとか。
古代ローマの道徳の基礎ともなる思想を打ち立てた大カトー(マルクス・ポラキウス・カトー、同名の曾孫と区別するため大を付けて呼ばれる)ですが、その説明の際に本村さんは、日本の武士道、西洋中世の騎士道を挙げます。
キリスト教徒は道徳の源泉として聖書をあがるが、それのない日本では武士道だと言ったのが新渡戸稲造でした。
しかしまだキリスト教のなかった古代ローマにあって、大カトーが言ったのが「父祖の遺風」でした。
それがまだ残っていた大カトーの時代には示す実体があったということでしょう。
それぞれの人物の挿話の後に、現代における問題点をいくつかそれと対比させていますが、まあそれは著者の信じるところなのでしょう。
少し疑問点もありますが。