爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「アーサー王伝説」リチャード・キャヴェンディッシュ著

アーサー王とは、紀元6世紀頃のブリテン島の王としてアングロサクソンの侵略と闘い、伝説の中では全イングランドウェールズを治めさらにヨーロッパ全土にまで支配を広げたことになっています。

 

この物語は、紀元12世紀ころにイギリスだけでなくフランスやスペインなどの宮廷にあっという間に広がり愛好されました。

このような騎士物語が求められていたという雰囲気もあったのでしょう。

 

アーサー王伝説はもちろんフィクションですが、そのモデルとなった人物は居るようです。

ブリトン人と呼ばれる人々を含むケルト人が住んでいた島(ブリテン島)を古代ローマ帝国が支配し、350年の間ローマの文化に浴しました。

ケルト人も多くはローマ化していったようです。

アーサーのモデルもおそらくローマ人とケルト人の混血のケルト貴族だったと考えられます。

しかし、紀元500年頃には西ローマ帝国は衰退し、ブリテン島の支配も緩みます。

そこへ侵略してきたのがゲルマン系のサクソン人でした。

圧倒されていたローマ・ケルト勢力ですが、500年頃の会戦で決定的勝利を得ることができ、その後半世紀ほどはサクソンの侵略を防ぐことができました。

その時の闘いの指導者がアーサーであったとすれば、それが長く伝説として残った可能性もあり得るところです。

 

その後、サクソン人の進出によりブリトン人はノルマンディーやブルターニュ、ウェイルズなどに逃れます。

そこでかつてサクソン人を打ち破った指導者としてアーサー王の名が伝説として残ったのかもしれません。

そこでは、実際のアーサーの戦歴だけでなく、伝統的なケルトの英雄の事績がアーサーの生涯に付け足されていったのかもしれません。

 

そこで、アーサー王と妻のギネヴィア、円卓の騎士たち、マーリンやモーガン・ル・フェイといった登場人物が揃っていったのでしょうか。

 

それらを今の形にまで整理したのが、12世紀のウェイルズのヂェオフリー・オブ・モンマスやフランスのクレチアン・ド・トロワたちであったそうです。

それに多くの人々の想像が加わり、最終的には15世紀のサー・トーマス・マロリーによって「アーサーの死」が描かれました。

 

登場人物はキリスト教徒であり、その道徳の中で騎士道というものを追求していきますが、その周囲にはケルトの神話が充満しているような雰囲気です。

異教ではあるのですが、それでも構わないというのが当時の情勢だったのでしょうか。

 

騎士たちが旅を続けて求める「聖杯」も、もちろんイエス・キリストの最後の晩餐で使われたものなのですが、それはケルトの呪文の中に眠っているかのようです。

 

アーサー王の妻ギネヴィアは、騎士の一人ランスロットと不倫の恋に落ち、それがアーサーの死にもつながっていくのですが、これもキリスト教道徳にはふさわしくないようです。

 

しかし、今でも英米の文化の根底には流れていそうなものが頻出します。

こういったことも知識として持っていないと教養あるとは言えないのでしょう。

 

アーサー王伝説

アーサー王伝説