地球全体を巻き込むグローバル化の勢いは誰にも止められないようですが、その撒き散らす害毒の大きさも明らかになってきています。
しかし、グローバル化と言うものは最近になって始まったというものではありません。
その歴史的な経緯を知り、さらに最近の展開を正確に把握することが今後どうすれば良いかということを目指す上では重要なことでしょう。
国際経済学が専門の著者は世界中で注目されているということです。
彼がどのようにこの難題を説明しているのでしょうか。
最初に強調され、さらに本書の中でも繰り返し述べられているのは、「世界経済の原理的な政治的トリレンマ、すなわち民主主義、国家主権、グローバリゼーションを同時に追求することは不可能だということを理解する」ということです。
これは、現在のようなグローバリゼーションが制御不能なまま伸長していく状況では、民主主義も各国の国家主権もないがしろにされていっているということを示しています。
グローバリゼーションは現代の発明品ではなく、新大陸(ヨーロッパ人の概念で)発見からその資源の収奪を始めた時代に進み始めました。
勅許会社と呼ばれる先兵を中心にヨーロッパ各国はその機能をフルに活かしていきました。
イギリスやオランダの東インド会社というのがそれにあたります。
その結果、17世紀から18世紀にかけては年1%程度の成長率で世界貿易が拡大していったのですが、19世紀に入って世界貿易は飛躍的に成長し始めます。
これを経済史家の多くが第1次グローバル化の時代と考えています。
これは、新しいテクノロジー、蒸気船、鉄道、運河、そして電信の登場が大きな要因となっていました。
さらに、各国指導者が経済自由主義と金本位制のルールの下で連携するようになったということもあります。
さらに、主導的な大国が帝国主義で世界中にそのルールを強制していました。
しかし、第1次世界大戦を経て1920年代には金本位制が崩壊し不安定な戦間期に入ります。
そこでは自由貿易体制は放棄され大国の間でも保護主義が横行します。
第2次世界大戦で大きな変換は起きても、その後のブレトンウッズ体制、さらにGATT、WTO体制を経ても保護貿易は守られてきました。
それが新自由主義、市場原理主義というものが伸長してくるにつれ、自由貿易のみが正義であり保護貿易主義は葬るべきものだという考え方が蔓延していきます。
産業のアウトソーシング化が進行し、賃金の安い新興国に工業生産は流れ出し、先進国の労働者は職を失います。
さらに、金融のグローバリゼーションという「愚行」(著者はこれを愚行と明記しています)まで始まってしまいました。
それまで、資本の国際間の移動は厳しく制限されていましたが、それらの制約はどんどんと廃止され、金融のやりたい放題を止める方策はないまま拡大一方となりました。
その拡大の進行がまさに進んでいるその時に、1997年のアジア金融危機という最初の惨劇が繰り広げられたのですが、誰もその金融グローバリゼーションのせいだとは考えず、さらにそれを拡大させてしまいました。
アジア各国、そしてその余波を受けたその他の国も何の落ち度もないまま深刻な経済危機に陥ったのでした。
行き過ぎたグローバリゼーション、すなわちハイパーグローバリゼーションと、政治とは衝突せざるを得ません。
しかし、政治は今はまだ一国だけの勢力にとどまっており、それがハイパーグローバリゼーションと対してもとても勝ち目はありません。
いくら政治がグローバリゼーション勢力を制限しようとしても他国に逃れればもはや力は及びません。
一国の制度がグローバリゼーションに対抗できないのは、労働市場を見ても明らかです。
ひどいレベルの最低賃金、長時間労働、子供の労働など、先進国では認められないレベルの労働条件も、それを許している国がある限りそこへの産業流出は止められません。
それで労働コストが安い製品が作られれば、価格競争では勝ち目がありません。
そのような反道徳的な労働でも他国が介入できなければ存続し続けます。
このような間違ったグローバリゼーションに歯止めをかけることができるのでしょうか。
著者は「資本主義3.0」をデザインすると提唱しています。
20世紀初頭の、政府の役割を制限したものが資本主義1.0、1970年代までの政府の介入が拡大された混合経済モデルが資本主義2.0とすると、それに続くのが資本主義3.0です。
そこでは現行の国家はまだ独自の社会体制・規制・制度を守っていくものとします。
しかし、国の間での制度上の相違点の間に交通ルールは設定しなければなりません。
また、非民主国家は民主国家間の経済秩序の中で、同じような権利を享受することはできないものとします。
グローバル金融に対する規制は重要です。
規則を逸脱する行為に対しては有効な対策ができるような体制を作る必要があります。
金融の透明性を確立し、タックスヘイブンのような国に制限を課すことが必要となります。
さらに、金融取引に対して課す低率のグローバル税(たとえば0.1%)を制定して国家が国際的な金融取引を規制する責任を持たせることです。
労働市場をグローバル化することは重要ですが、規制をなくせば大量移民が生じることになります。
いまだに労働者の賃金は国の間で1ケタ以上の差があるため、高賃金の国に労働者が押し寄せることを防ぐことは難しくなります。
そのためには著者は「一時的労働ビザの発給」を提唱しています。
たとえば全体の3%を越えない範囲での労働者数に対して5年間の労働ビザを出すのです。
その労働者に対しては国内労働者と差別的賃金を設けることはできません。
ただし、期限が切れても労働者は帰国しないのではないかと言う危惧もありますので、その制度は十分に検討されるべきです。
たとえば、労働者に渡す給与の大部分を積み立てさせ、帰国後に支払われるようにするとか、帰国しない場合のペナルティを労働者とその国との双方に課すといったものです。
やはり、現在でも非常に強力なグローバル企業に対するには国際間の国家協調が不可欠のようです。
ということは、ほぼ不可能と言うことなのでしょう。