昔は金属といっても鉄と銅、鉛など限られたものしか使われていませんでしたが、今では電気関係や合金の原料として名前もよく知らないようなものまで何十種も使われています。
今後はその傾向がさらに強まるのでしょうが、それらの金属元素がどのような形態で存在し、どうやって採掘され精製されるのか、おそらくほとんど知られていないでしょう。
この本ではそれらの知識を豊富な図版と写真で分かりやすく示しており、大いに参考になるとことです。
地球全体を考えた時、どの元素がどの程度の存在率であるかということは分かっています。
しかしいくら大量に存在していても地球に万遍なく広がっていれば実際にはその単体を手にすることはできません。
一方、存在率は小さくても偏在しているために人間が古くから手にしていたのが金や銀、白金といったもので、存在率から言えばppbレベルであるのによく知られています。
このような元素の偏在というものができた理由には、様々な要因で濃縮されて鉱床と言われるものになったということがあります。
そのような鉱石の出来方には、マグマが冷却される時に濃縮される「火成鉱床」、熱水が対流して起こる「熱水鉱床」、堆積岩ができる時の「堆積鉱床」の三種があります。
いずれもその濃縮には極めて長い時間がかかり、またその場所も限られたところだけです。
そのような鉱石にはそれぞれ様々な金属元素が含まれているのですが、それが現在の技術で取り出して単体の金属とできるかどうか、そこには金属の需要と価格、鉱石内での存在率によって大きく影響を受けます。
アルミニウムや鉄はかなり存在比が大きいので、地殻の元素存在度の10倍程度あれば採算が合うのですが、銅鉱石や金鉱石では1000倍程度は無いと実用化できません。
取り出す金属によって様々な精錬法があります。
乾式精錬、湿式精錬、電解精錬など様々な精錬法がありますが、金属元素の種類によって様々な方法を組み合わされて実施されます。
アルミニウムは地殻存在度は非常に大きいのですが、その精錬法がなかなか開発できなかったので実用化は遅れました。
19世紀にようやく電解精錬法が実用化され、アルミという金属自体も実用化されることとなりました。
鉱石には普通は一種だけの金属が含まれているわけではなく多種のものが含まれているのが普通です。
亜鉛の鉱石である閃亜鉛鉱には、亜鉛の他にもインジウム、ガリウム、アンチモンも微量ながら含まれています。
亜鉛を精錬する精錬所でも技術の高いところではそういった副産物を精製できます。
そのため、インジウムは今では液晶に使われていて重要な資源なのですが、インジウム鉱山というものは存在しません。
あくまでも亜鉛鉱山からのバイプロダクトとして生産されています。
本書後半部では各元素について詳述されています。
チタンは今ではあちこちで使われていて有名な金属かもしれませんが、この鉱山というものはなく、岩石が風化して沈積した場所があちこちにあり埋蔵量は豊富です。
しかし粗精製されてできた酸化チタン(合成ルチル)というものから、金属チタンにするには高度な精製技術と大量の電力が必要であり、日本はその精製技術が非常に優れているために世界の金属チタン製造量の年間20万トンのうち日本が5万トンを占めているそうです。
元素番号57のランタンから71のルテチウムまでのランタノイド元素の15種にスカンジウムとイットリウムを加えた17元素がレアアース(希土類元素)と言われるものです。
これらの元素は現在では電子機器などに用いられる重要なものですが、かつてはまとめてライター用の石にされていたそうです。
レアアース鉱床はいくつかのタイプがあり、17元素の含有率が鉱床によって異なります。
ジスプロジウムという元素が豊富なのが中国で、アメリカやオーストラリアの鉱床ではそれが少ないために世界的な需要に応えられないそうです。
そのジスプロシウムの供給をタネに政治に利用したのが2010年の中国によるレアアース危機でした。
これからますます大きな問題となってくるような金属元素の需給です。
その大まかな知識だけでも知っておく必要がありそうです。