爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「同窓会に行けない症候群」鈴木信行著

同窓会、言うまでもなく学校で共に学んだ(?)人たちが卒業後に集まる会合ですが、このところ「同窓会に行きたくない」という人が増えているという話です。

 

この本では、「日本人は”同窓会に行ける人”、”同窓会に行けない人”に二分される」と現状分析を行い、そして「同窓会に行けない人はなぜ行けないのか」を掘り下げていきます。

そこには日本の経済状況から、社会構造の変化、人と人との関わり合いの変化まで大きく社会が変わったことが影響しているということです。

 

もちろん、おそらく著者の言いたかったことというのはその社会変化のことについてであり、同窓会云々は読者を引き付けるための手法だと思いますが、その文章技法はかなりの腕前と思ったら、著者の鈴木信行さんは日経ビジネスの副編集長であり、これまでにも「宝くじで1億円当たった人の末路」といったベストセラー書籍を書いている方だということで、さすがです。

 

現在、高齢者の70代以上の人にとっては、同窓会というのはかつての学校友達に会える貴重な機会で万難を排して出席と言うのが当然と思う人が多いのでしょうが、最近の若い人はまったく事情が違うようです。

同窓会代行サービスという事業を手掛けるある会社によると、同窓会参加率が70代では62%なのに対し、60代では42%、50代では24%ということです。

もっと若い世代ではさらに低いことが想像できます。

こういった現象の要因としては最近の学校では「スクールカースト」などと言って人間関係が悪化しているからということが考えられますが、どうやらそればかりでもないようです。

 

同窓会といった、昔の知り合いに会うということは、自分の現状に何らかの自信が持てなければできないことかもしれません。

それは、大金持ちになったりスターになったりといった「すごい人」である必要はなく、会社でそれなりの出世をする、事業を立ち上げなんとかやっていくなどといった「普通の成功」でも構いません。

それが、現在の70代以上、つまり高度成長時代に働き盛りであった人々には何らかのものが得られた人が多かった。

そこがこの世代で同窓会出席率が高い理由だということです。

なお、この場合そういった職業関係の業績だけでなく、趣味や社会活動といったものもありそこで一定の成果を挙げるということも十分に自信につながります。

これも高齢世代では色々なものがあり「一応の成功者」が多くなる理由になっていました。

 

ここで著者はこういったタイプ分けを、あの国民的アニメ「ちびまる子ちゃん」の登場人物になぞらえて分類します。

A地元から出て成功する人たち 花輪君、野口さん、大野君、杉山君

B地元にいて成功する人たち  該当なし

C地元から出るけど普通の人 まる子、たまちゃん、永沢君、藤木君

D地元に残る普通の人    はまじ、ブー太郎君、山田君、丸尾君

 

そして、「同窓会に出席する」のはどのタイプかという分析をしています。

それが「昭和の時代」と「平成の時代」では異なっています。

昭和では同窓会出席はB、C、D 欠席はA(仕事が忙しすぎるため)

平成では、出席はBのみ、A、C、Dは欠席となります。

もはや「普通の人」が職業的にも社会的にも自信が持てなくなっているという分析です。

 

このような事態になる事例として具体例が挙げられています。「会社で出世できなかった」「起業して失敗した」「”好き”を仕事にできなかった」「仕事以外の何かが見つけられなかった」

高度成長終了以降、こういった人がほとんどとなってしまいました。

それが「同窓会に行けない」ことにつながるということです。

 

とはいえ、こういった人々が無理に同窓会に行くべきだとも言っていません。

行きたくなきゃ行かなければ良いということです。

しかし、同窓会にも行けないという人は確実に孤立化が進んでいます。

そのまま孤独死に至るか、はたまた自爆型の犯罪を犯すか。

「同窓会に行ける、行けない」というだけでなく、大きな社会の病みにつながっているようです。

 

私は完全に「同窓会に行きたい」タイプでした。

学校はほとんど関東地方なので、住んでいる熊本からは飛行機で行かなければならないのですが、それでもコロナ禍以前に開かれていた同窓会にはできるだけ出席していました。

しかし、考えてみれば毎回出席しているのもだいたい同じようなメンバーで、卒業時に48人いたクラスのうちで出席者はせいぜい15人程度です。

それ以外の過半数の人々は、「同窓会に行けない」症候群になっているのでしょうか。

たかが同窓会、されど同窓会。

今の日本の社会を考えさせられる問題です。