爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「私たちはどうつながっているのか ネットワークの科学を応用する」増田直紀著

ネットワークといっても、インターネットだけの話ではありません。

人間社会というものは、「人は一人では生きられない」という言葉が示すように、多くの人間が関わり合ってできています。

そこには、人と人との「ネットワーク」と言うものがあり、それが複雑に絡み合って機能しています。

それを研究する学問分野もあり、多くの学説が発表されています。

それを紹介するとともに、それが実際にどのように我々の生活に応用できるかを複雑ネットワーク理論研究者の著者が解説しています。

 

ネットワークと言うものは時々話題にものぼるだけに、さまざまなキーワードもどこかで聞いたようなものがあります。

スモールワールド、6次の隔たりクラスター、スケールフリー等々。

しかし、それが何をどのように意味するかということは深くは知りませんでした。

 

「世間は狭い」とはよく言われることです。

自分と遠い存在のような人物の間に、どの程度の距離があるのか。

自分の知人、その知人の知人、さらにその人の知人といった具合にたどっていくと、平均6回繰り返せばたいていの人には行き着くそうです。

それが「6次の隔たり」ということです。

 

そのような人と人とのつながりは、木の枝状の構造ですが、人間関係を表す構造には他にも「クラスター」と言うものがあります。

これは「コミュニティー」あるいは「集団」と言い換えられるものです。

人は、社会生活を送っている以上は何らかの集団に属しています。

それも、一つだけではなく同時にいくつもの集団の構成員となっています。

会社に行けばそこの社員として、家に帰れば家族として、子供がいれば、子供の親グループとして、学校時代の友人とは同窓会として、趣味のグループもあるでしょう。

そのようないくつかのコミュニティーが重なり合い、ネットワークというものになっていきます。

 

このようなネットワークは、いろいろと使いこなす方が有利になります。

もちろん、これは無意識にやっている人も多く、それを上手くやっているほど社会的に位置が高いとも言えます。

就職の時にコネを使うというのもそうですし、取引に知人とのつながりを利用すると言うことも誰でも考えることです。

ネットワークビジネスなんていうものもまさにこれをフル活用するものでしょう)

 

ネットワークを新たに構築する上で、人を信用する度合いはアメリカ人の方が日本人より高いそうです。

これは、日本人はみな逆だと思い込んでいるかもしれませんが、実際は日本人が他人を信頼すると言っても「身内」に限られており、それ以外の他人はなかなか信用できないのだとか。言われてみれば思い当たります。

 

さらに、平均6次の隔たりと言っても毎回6次を使っているのも芸がありません。

「近道を探す」というのも重要な能力であり、これを研ぎ澄ますと効率的にネットワークを使うことができそうです。

 

ネットワークのもう一つ重要な構造に「スケールフリー・ネットワーク」ということがあります。

これは、ネットワークを構成するメンバーでもすべて同程度ではなく、中には非常に交際範囲の広い「ハブ」と言われる人と、あまり広くないその他メンバーとの差があるということです。

飛行機の路線網でも明らかですが、羽田や伊丹といったハブ空港からは全国各地や海外にまで多くの路線が出ているものの、その他の空港は羽田伊丹以外には数カ所にしか路線がないと言うもので、人と人とのネットワークでも同じような現象になります。

「性関係」のネットワークにも同様に「ハブ」となる人物が存在し、これを解明すると性病やエイズの広がりも把握できるとか。

 

ただし、「ハブ」となる人物がすべて有利かというとそうでもなく、交際コストも高く気遣いも多く、性格的にそうしたいという人でなければやっていけないものかもしれません。

 

会社の効率改革などで、こういったネットワーク理論を用いるという動きもあるそうです。

しかし、理論に振り回されて人間関係の実態を忘れるとうまくいかないとか。

やはり、ネットワークというものは人間関係そのものとも言えるものかもしれません。

 

私たちはどうつながっているのか―ネットワークの科学を応用する (中公新書)

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