歴史小説などで読んだことがあっても、実際に昔の生活というものがどういうものかということは、なかなか想像しにくいものです。
この本では一応の導入として、「もしもタイムマシンで現代人が中世のイングランドに行ったら」という設定で書かれていますが、中身はほとんどそれを意識せず、あくまでも中世イングランド詳述に徹しています。
その内容も、生活必需品から食事、医療、仕事、治安までとその時代の生活全般にわたるもので、本当にタイムマシンでそこに降り立っても何とかなりそうには書かれています。
とはいえ、現代との差は想像以上のものであるようで、おそらく現代人ではたとえ歴史研究の専門家であってもそこに立てば誰が見ても完全に不審者と見られるでしょう。
分っているようでなかなか現代人が理解できないのが中世以前の死亡率の高さでしょう。
乳幼児期の死亡率は想像以上に高く多くの子どもが10代にならずに死んでいます。
しかし10代を迎えることができればその後はかなりの間は生き永らえることができます。
ただし、とはいっても様々な危険はそこら中に転がっています。
戦争は言うに及ばず、危険な作業、そして女性の場合は出産。
イングランドでも長生きが多かったのが聖職者というのはここに理由があります。
危険な作業というものはあまりやらずに済み、戦争も関係なし、修道女の場合でも子を産むことはありません。
中世では衣類はすべて天然繊維、洗濯も頻繁にはできなかったので虫による被害が避けられないものでした。
そこで蛾があまり近づかないと考えられたのがトイレだったそうで、そこに衣類を吊るして保管していたそうです。
現代では衣装戸棚を意味するguardrobeという言葉は当時は屋内トイレを意味していたとか。
そのため、人が集まるところでは衣類からその臭いがしたそうです。
こういった詳細まで当時のままに描いたら時代小説、ドラマはとても現代人の鑑賞に堪えるものではなくなるでしょう。