爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ヴェルサイユ宮殿に暮らす」ウィリアム・リッチー・ニュートン著

フランスの太陽王ルイ14世が宮廷を移し、その後ルイ16世まで使われていたヴェルサイユ宮殿といえば、優雅で華麗な宮廷生活が営まれていたというイメージですが、その実情はひどい部分もあったようです。

 

本書の各章の副題を見ていけばだいたい想像できそうです。

住居(居室不足に翻弄される貴族たち)

食事(豪華な食事はだれのものか)

水(きれいな水は必需品)

火(寒い部屋は火事の危険と隣合わせ)

照明(窓と鏡とろうそくだのみの薄暗い部屋)

掃除(清潔さとは無縁の宮殿)

洗濯(洗って干す場所を求めて右往左往)

 

ヴェルサイユ宮殿は、ルイ13世が森の狩猟の際に一夜をすごすために作られた仮の館だったのですが、その息子のルイ14世が改築し、1682年に宮廷を移しました。

臣下たちは国王の目につくところにいたいがために、宮殿内に居室を求めましたが、その総数は限られており、また王族やそれに仕える人々、官僚、召使に至るまで宮廷内に居室を求めていたために、その争奪戦は激しいものだったようです。

 

ただし、建てられたすぐ後にも早くも建物のあちこちにボロが出てきており、修理や改造が必要となったのですが、財政難からなかなかそれも認められず、崩れかかった居室で我慢して住んでいたようです。

 

日本で言えば江戸時代、照明もロウソクしかなく、夜はほとんど真っ暗、足元を照らす松明も無く階段で転げて亡くなった人もいたそうです。

 

また、トイレも数少なく、上流貴族の人々が少し物陰に入ってそのまましてしまうということも多かったようです。

さらに、トイレがあってもその処理はほとんどできず、一杯になってから汲み取りをしたのですが、その中に入って作業しようとしてあまりの臭気で死亡した人もいたとか。

 

ヴェルサイユという場所自体、あまり水利の良好なところではなく、水不足には悩まされました。

ひどい臭いの水を料理用に使わざるを得ないということもあったようです。

遠くから清潔な水を引く工事も財政難でなかなかできなかったのですが、やったとしても業者にはその代金が払えず、何年も請求され続けたとか。

 

王侯貴族であっても、衣類は常に洗濯をさせなければ着ることはできないのですが、その洗濯場がほとんどありませんでした。

わずかな洗濯場を取り合って、さらに物干し場もなく、人目につくところに王女様の洗濯物がはためいているということもありました。

 

何か、華麗な宮廷という夢が一気に消え去るような話でした。

そういえば、デュマの「三銃士」の後半部に、宮廷で居室を巡っての争奪の場面も出ていました。

実際にそうだったのかという思いです。

 

ヴェルサイユ宮殿に暮らす—優雅で悲惨な宮廷生活