爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本の消費者はどう変わったか」野村総合研究所、松下東子、林裕之著

野村総合研究所では、生活者研究・マーケティングコンサルティングチームという組織が「生活者1万人アンケート調査」という調査を、1997年から3年ごとに実施しています。

これは今では主流となったネットでの調査ではなく、1万人の対象者を選び昔ながらの訪問して聞き取るという方法で丹念に調べたもので、日本人の価値観・行動・意識の変遷をみることができます。

 

この本はその2021年の調査をそれ以前の調査結果と対比しながら、見ていきます。

この時期にはコロナ禍というこれまでにないような社会の激変がありました。

それが日本人の意識をどのように変化させたのか。

 

なお、この本が主要な読者層と想定しているのは、企業でマーケティングを担当している人々で、日本人の意識の変化を新たなビジネスチャンスとすることを狙っているものと見ています。

彼らがこの本からどういったヒントを見つけ出すのか、それは企業方針やそれぞれの商品の特性によって異なると思いますが、今回の変化はこれまでと比べても相当大きいようなのでその解析も難しいものかもしれません。

 

前回の2018年調査と比較し、大きく異なったのはコロナ禍での行動制限などによる変化ですが、実はそれ以前から引き続き変化し続けているものも多くあります。

家族観などは変化の傾向は同じですが、それでもやはり変化速度が上昇しているようです。

結婚するかどうか、結婚しなければならないかといった意識は徐々にではありますが相当変わっています。

国の調査でも世帯数というものが増加し続けています。

人口は減少傾向にあるのになぜ世帯数が増加するかと言えば、単身世帯の増加によります。

国勢調査のたびに、150万から200万世帯ずつ単身世帯が増えている状況です。

この中にはもちろん夫婦で死別して一人になったという世帯もありますが、それ以上に多いのが非婚者たちです。

かつては「標準世帯」と言われるものがあり、税制や年金制度など多くの制度がこの「夫婦と子供二人の標準世帯」を基に作られてきました。

しかし今後は「単身世帯」というものが多数を占めるようになり「標準世帯」も「単身世帯」にすべきかもしれません。

 

結婚したいのに経済的理由でできないという人も多いのですが、意識としても「結婚しなくてもよい」と考える人が増えています。

また結婚はしたとしても「夫婦の関係」についての意識は大きく変化しており、「夫婦は経済的にも対等」と考えたり、「夫婦間に秘密があっても良い」と考える人が増えているそうです。

 

なお、日本では結婚と出産とはほぼ一つの組として考えられてきており、それが出産数の減少にもつながると言われていますが、この意識も徐々に変わってきているようです。

婚外子は認められないといった意識は徐々に減ってきているのですが、ただし現在では制度上の格差が激しいために現実では婚外子の数は増加はしていません。

 

コロナ禍の影響では「人づきあい」というものが「最低限」にまでそぎ落とされました。

この意識変化は非常に大きなもので、全年代で起きておりまた今後コロナ禍が終息したとしてももとに戻るかどうかは不明のようです。

これで大きいのが青少年で、学校での友達付き合いや行事が減ったために人間関係の形成に大きな欠陥ができています。

これがこの年代の人々が今後成長していった場合に社会の変化につながる可能性が大きいものと考えられます。

なお、リモートワークの拡大で日本で遅れていると言われ続けていたIT化は相当進んだようです。

数年分のデジタル化がたった2か月でできたとも言われるとか。

かなりの高齢者にもスマホが行き渡りネット環境も拡大したのですが、70代以上はさすがにネット利用は進まず、スマホを使ってもせいぜい通話とメール利用程度のようで、シニア向けのビジネス構築の場合には注意が必要とのことです。

 

コロナ禍で変化したことで、もしもコロナ禍が終息した場合にもとに戻るかという調査は興味深い結果でした。

元に戻る、つまりコロナ禍で無理やりやったけれどダメだったというものは、オンライン飲み会、自宅トレーニング、外食や旅行といったもので、まあ当然でしょう。

しかし、もう元には戻らないというものは、オンラインショッピング、オンライン予約、といった、便利だけれどこれまではとっつきにくかったというものもあります。

問題は「人づきあい」「飲みにケーション」といったもので、これらも元には戻らないだろうという回答をする人が多かったということです。

人づきあいというものが、これまでも嫌々ながらやっていたということでしょうか。

嫌でもやった方が良いものがあると思いますが。

 

どうやら、コロナに振り回されたこの3年というものは社会や人の意識に大きな変化をもたらしてしまったようです。

もう元の社会には戻らないのかもしれません。