爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「単身急増社会の衝撃」藤森克彦著

単身世帯、つまり一人きりで暮らしている人々が増え続けています。

そこには、これまでのように数世代が同居して暮らすというスタイルを取ることができなくなり、夫婦単位の世帯が増えた結果、死別または離別して単身となった人々もあり、また未婚のまま親元を離れて生活している人もいます。

 

さらに、未婚でしかも仕事もせずに親と同居していたのが、親が死亡したために単身となってしまったという人も増えています。

 

日本の社会制度というものは、数十年前の同居世帯を基本として作られています。

そのために、極めて安上がりな制度となっているのですが、家族の形が大きく変わってしまった時には何のセーフティネットもなしに放り出される人が増えるということにもなります。

 

このような社会の急変について、みずほ情報総研の主席研究員という藤森さんが、豊富なデータを駆使して説明したものです。

 

単身世帯というものに数えられるのは、2005年の数字で、1446万人(11.3%)であり、世帯数で言えば全世帯の29.5%となります。

ただし、この単身世帯というものには下宿人や会社の寮在住者もカウントされていますので、若干違和感があるものとなっています。

 

この単身世帯を構成しているのは男女、全年齢層にわたって存在していますが、特に多いのは20代男性で未婚者です。

これは進学や就職で親元を離れて一人暮らしをしている人たちです。

男性ではその後徐々に結婚して単身から卒業するのですが、年齢が上がると離別・死別で再び単身に戻る人たちが増えてきます。

女性の場合も男性と似た傾向はとりますが、50代以上で急増するのは夫と死別した人が増えるためと見られます。

 

今後の傾向を予測しても、単身者の増加が続き2030年には全人口の15%、全世帯数の38%に達するものと見られます。

社会保障や公的制度などは、「夫婦と子供二人」の標準世帯というものを基準として作られていますが、その前提が大きく狂ってきていることが分かります。

 

このように単身世帯というものが増えてきた要因は、親子の同居が激減しているということと共に、特に若い世代で未婚者が増えているということが挙げられます。

 

単身世帯の家計というものを見た場合、若い世代の正規採用の人々は所得が多く、二人以上の世帯よりも所得額は多くなります。そのために平均値は高いように見えますが、実は格差拡大が続いていて、非正規雇用社員などの単身者はかなりの貧困状態に落ちているということがあります。

非正社員であっても夫婦の所得を合わせればなんとかなるという場合もあるのですが、未婚非正社員の単身者は結婚もできないという傾向があるために、貧困状態から抜け出すことが困難となります。

 

高齢の単身者、それも男性の場合は社会的孤立を深めてしまうという問題点もあります。

仕事を辞めてしかも一人暮らしの高齢男性は、社会との接点も無くなり、毎日家でテレビを見るだけという生活をしがちであり、誰も知らぬ内に死んでしまう孤独死ということが頻発します。

特に、大都市ではこのような状態になる人が多く、何らかの対策が必要となります。

 

世界的に見て、単身世帯というものは北欧やドイツ、オランダなどで高い傾向があり、日本での世帯比率29%という数字と比べてはるかに多い、46%(スウェーデン)、40%(ノルウェー)といったものになっています。

これは、親子が同居する習慣が無いということや、プライバシー重視の考え方から来るようです。

さらに、高齢者向け住宅が充実しているためにそこに一人で入居する割合が高いという、制度から由来する理由が存在します。

特に介護を公的に助ける制度があるために、不安なく一人暮らしに入れるということです。

日本が不十分な公的介護制度のままに、さらに高齢者の単身化が進展すると大変な状況に陥ることになります。

 

日本の社会保障は家族と企業に依存する制度として、非常に低い負担と低い給付しか公的には準備できないものです。

しかし、現在増えている非正規労働者の単身者というのは、その家族・企業のセーフティネットから完全に抜け落ちている人たちです。

ほとんど年金も受けられない状況では生活保護しか術はありません。

社会保障全体の制度改革を緊急で始めなければ危機が訪れるでしょう。

 

暗い予測しかできないような話ですが、これを避けていては将来がますます不安になるようです。

 

単身急増社会の衝撃

単身急増社会の衝撃