爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「黄土の群星」日本ペンクラブ編、陳舜臣選

黄土すなわち中国の平原です。

中国の歴史に題材をとった小説12編を選んだというものです。

その12人の著者は、宮城谷昌光中島敦、伴野朗、桐谷正、安西篤子井上靖、藤水名子、森福都、司馬遼太郎田中芳樹、井上裕美子、陳舜臣という面々です。

その作品の発表年代も様々で、中島敦の盈虚は戦前の1942年発表の物です。

中島、井上(靖)、司馬のお三方は故人ですが、その他の方々は本書出版当時は存命ということでした。

 

舞台となる時代がそれぞれ違います。

古い方から「豊穣の門」(宮城谷)が西周、「盈虚」(中島)が春秋、そして各時代があり最後の「五台山清涼寺」(陳)が清の時代。

またかなり歴史的事実に沿った「歴史小説」と見られるものもあり、舞台はそこにあるもののかなり想像を加えたものもあり、様々です。

 

宮城谷さんの「豊穣の門」はすでに別の作品集で読んだことがあるものでしたが、他の作品は初めてでした。

特に唐時代以降のものは出てくる人物、関連する事件などもあまり知識がなく、自分の中国史の関心が古代からせいぜい三国までに限られているということに改めて気づかされます。

 

なお、最後の部分に「編集部より」として「差別的表現あるいは差別的表現ととられかねない箇所が含まれますが」といった言い訳が書かれていますが、どうもその最たるものが司馬遼太郎の「戈壁(ゴビ)の匈奴」という作品でしょう。

モンゴルの人には読ませられないような内容と思いますが、まあ発表が1971年ということでぎりぎり許された範囲だったのでしょうか。

 

漢の時代をはじめとして多くの女性が匈奴や西域の国々に戦略結婚で送り込まれましたが、その女性の一人を描いた安西篤子さんの「烏孫公主」は印象深い作品でした。

二度と国の土を踏める見込みもないところへ行かされるということは大変なことだったろうと思います。