日本地下水学会が成立60年を迎えられたそうですが、それを記念して会員の方たちが共同で一般の人々の地下水などに持つ疑問に答えるという形の本書をまとめたということです。
日本では降水量が非常に多いということもあり、河川などの表面水が豊富ですが、だからこそかもしれませんが地下水・湧水も豊富であり名水として知られているものもあります。
しかし地下水がどのような形態で存在するのか、そういった知識は意外に行き渡っていないようにも感じます。
(私も我が家の用水は地下水に頼っているのですが、それがどのような水なのか分かっていたとは言い難い状況です)
地球上の水のほとんどは海の塩水であり、淡水は水の総量のわずか2.5%しかありません。
そしてその淡水の7割が氷河などの氷であり、人間が利用できる淡水はごくわずかです。
世界的にはその淡水のほとんどが地下水であり、水資源としても重要なものとなっています。
地下水も高い方から低い方へ流れているのですが、地下の砂や礫の間などを通るために流れる速度は遅いものです。
ただし、岩石などの構造により差があり、流速も1m/日から1m/年と様々ですが、相当遅いところも多いようです。
「伏流水」などと言うこともありますが、そういったイメージとはかなり違うようです。
地下水利用の手段として井戸というものが使われますが、これも歴史的にも様々で、想像しやすい「掘り井戸」というもの、人が穴に入って掘り進めるといったものから始まるのですが、徐々に変わって行きます。
「堀抜き井戸」というものが近世に入ってから開発され、竹や鉄管などを地中深く差し込んでいき、粘土層などで挟まれた砂層・礫層などを通る地下水の流れまでたどり着かせ、そこから採水する方法です。
「上総掘り」という名前だけは聞いたことがありましたが、江戸時代から改良が進められ明治時代にはその名で知られるようになりました。
さらに現在では機械掘りで深く掘削することができるようになっています。
地下水利用について負の側面も説明されています。
都会では大量の地下水を使用することで地盤沈下が起き大問題となったことがありました。
その結果地下水利用を規制する法律が作られ、大量使用ができなくなりましたが、地下水使用で地盤が降下した場合は使用をやめても地層構造が元に戻ることは少なく、地盤が上昇するということは期待できないようです。
また、高度経済成長期には公害も多発しましたが、有害廃棄物の処理も甘かったために地下水を様々な有害物質で汚染してしまうという問題も起きました。
トリクロロエチレンやベンゼンなどの汚染という話はよく聞きましたが、最近でも2003年に茨城県神栖市で判明した有機ヒ素のジフェニルアルシン酸による健康被害の事故も発生しています。
また有機溶剤によるものばかりでなく、農地からの肥料成分である硝酸性窒素が地下水に溶け出すといった例も起きています。
近年でも全国の調査地点のうち3%で環境基準を越えている状態です。
熊本は地下水が豊富と言われていますが、それでも使い過ぎれば悪影響が現れるようです。
大事に使って行きたいものです。