爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「非アメリカを生きる」室謙二著

著者の室さんは大学時代よりかつてのべ平連活動に関わり、その後アメリカに渡り市民権を獲得してライターとしてさまざまな本を書いています。

アメリカ市民となったと言っても白人であるわけでもなく、アメリカの中にあっても「非アメリカ」を意識せざるを得ないようです。

 

この本では今のアメリカを形作りながらもWASPすなわちアングロサクソン系のアメリカという人々の生き方とは異なる生き方をした人たちがどのようなものであったかということを取り上げています。

 

描かれている人々は、最後のインディアン「イシ」、スペイン市民戦争に義勇兵として参加したハンクとジャック、マイルス・デイビス、鈴木老師(鈴木敏隆)、そして「ハムサンドを食べるユダヤ人」です。

 

スペイン市民戦争とは、あのピカソゲルニカの舞台となった戦争ですが、それ以上のことはほとんど知りませんでした。

しかしアメリカはそれに関わることを拒絶し、アメリカ人が義勇兵として参加することも禁止しましたが、多くの若者が参戦し多数が死傷しました。

その部隊をエイブラハム・リンカーン旅団と呼んだそうですが、あくまでも勝手に名乗っただけのようです。

そこで戦い何とか生き延びてアメリカに帰国したハンク・ルービンはその晩年に著者と親交があったそうです。

スペイン戦争に加わった人の一部は共産主義者であり、政府からは密出国しそれに加わるものは皆共産主義者であると見なされたのですが、ハンクもその他の多くの若者も共産主義とはまったく関係がなく、ただ実生活に疲れたり国に居づらくなってスペインの向かったということです。

しかし武器もほとんど無く、あったとしても第1次世界大戦時代の中古だけで、ドイツから支援を受けたフランコ軍には全く歯も立たず戦死していきました。

 

アメリカには多くのユダヤ人が渡ってきましたが、著者の奥様もそういったユダヤ人の子孫であり、その父祖たちのアメリカにたどりついた経験の物語というものは口伝えで受け継がれていました。

奥様の曽祖父母はロシア(現ウクライナ)のジュトマという所に住んでいたのですが、1890年代にユダヤ人の虐殺であるポグロムから逃れてアメリカに渡ってきたそうです。

そしてそれはあのミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」の主人公の境遇とも非常に似通ったものでした。

ただし、日本語訳のそれはユダヤ人の実態とはかなり異なるものになっている(だからこそ日本でもヒットした)そうですが。

ユダヤ教の伝統はかなり崩れており、正統派ユダヤ人なら絶対に口にはしないハムサンドも食べる人がいるということですが、それでも各所に残っています。

子どもが13歳になった時、成人式としてシナゴーグで行われる儀式は、トーラ(旧約聖書の最初の5章)を読んでその自分の解釈を大人たちに披露するというものだそうです。

単に朗読するだけなら他の文明でもありそうですが、「自分の解釈」というのが面白いことろで、そこには自分たちの文化を未来に伝えるだけでなくそれを現代に当てはめる技術を子供たちに見に着けさせようという文化があるということです。

 

日本人が「アメリカ人」と聞いてイメージするのは、やはり今でもWASPでしょうか。

しかしすでに人口的にはそれ以外の人々の方が多数となっているそうです。

社会の上層はやはりまだ元通りかもしれませんが、アメリカも変わっていくのでしょう。