リスク学者永井孝志さんの、「リスクと共により良く生きるための基礎知識」は永井さんが夏休みということで通常のリスクに関する話もお休みなのですが、それに代わってちょうどオリンピック開催中ということで、オリンピックにおける出場選手の性別判断という話題が掲載されていました。
ニュージーランドの重量挙げ選手が、女子として出場しますが実はトランスジェンダーであったということで、他の選手が反発しているそうです。
多くの種目で男女別とされており、特に問題となるのが女子競技に実は男子という選手が出場する場合でしょうが、これまでも数多くの問題がありました。
しかし、そもそも普通の人々の認識とは違い、男女の性別というものはそれほどきれいに区分されているものではないようです。
オリンピックでの性別判定の歴史というものは、1936年のベルリン大会で女子として出場した選手に疑惑が持ち上がったというところから始まっています。
1964年の東京大会でもかなりの女子選手に疑惑があったということですが、その後検査を実施するようになります。
方法も最初は目視検査!
その後、メキシコ大会から染色体検査が導入されます。
しかし、これも周知のとおり男性がXY型、女性がXX型などと言っても多くの異型があり、それほどすっきりと区別できるものではありません。
そのため、数多くの紛争を引き起こしてしまいます。
そして、2012年のロンドン大会になって、男性ホルモンであるテストステロンの血中濃度を測定するということになりました。
テストステロン濃度が10nM 以下であることというのですが、これは「性別を決定する」ということではなく、あくまでも「女子選手としての出場権を決める」と考えるべきだということです。
女性の場合テストステロン濃度は0.12-1.79 nMであるのに対し、思春期後の男性の場合は7.7-29.4 nMであるとされています。
しかし、それが適用されるとすぐにまた問題となる事例が出現し、スポーツ仲裁裁判所での判定となってしまいます。
その後、国際陸連ではこの濃度基準は5nMに引き下げるとしているのですが、オリンピックではどうなったのでしょう。
なお、トランスジェンダー選手の出場要件というものはすでに決められています。
2003年には次のように決まりました。
①性別適合手術を受けてから2年以上が経過していること
②十分な期間のホルモン療法が検証可能な方法で行われていること
③新しい性が法的に承認されていること
ただし、性別適合手術については国により状況がかなり異なるため、2016年からは次のように実質的にテストステロン濃度だけで決められています。
①性自認が女性であること
②テストステロン濃度が10nM以下であること
ただし、この濃度は国際陸連の基準に合わせて引き下げられる可能性もありそうです。
しかし、上記の数値のように男性でもテストステロン濃度が低い人は居るようで、そういった人が「自分は女性だ」と言い張れば女子競技に出場できるのかという問題も出てきます。
これからも多くの紛争が持ち上がるのでしょう。
それなら男女の区別も止めてしまえとするわけにも行かないだろうし。
難しい話です。