爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「オリンピックという名の虚構 政治・教育・ジェンダーの視点から」ヘレン・ジェファーソン・レンスキー著

東京オリンピックはコロナ禍のため中止論も大きく叫ばれる中、1年間の延期で開催されましたが、始まってしまえば日本人特有の心性なのか開催疑問視したことなどすっかり忘れ去られ、応援一色となってしまいました。

 

しかしオリンピックというものについては負の側面が非常に大きく、オリンピック産業と言うべき大きなものとなっており、その中心に位置するのがIOCと各競技の競技団体です。

またそれらの団体は腐敗の巣であり多くのスキャンダルが次々と起きているのも周知の事実です。

東京オリンピックでも数々の事件が明るみに出ています。

 

このようなオリンピックというものについて、カナダトロント大学の名誉教授でスポーツのメガイベントの負の影響、スポーツとジェンダーなどについて長く研究を続けている著者が様々な方向から取り上げています。

ただし、学者の論文ではありがちなのですが、非常に詳細な内容でさらに引用文献なども膨大なものとなり、それをいちいち書き込まれているために少々煩雑となってしまい、読みづらい印象となっているのは間違いないところです。

やや残念に感じます。

 

オリンピックというものはそもそもクーベルタンがドイツに無残にも敗戦したフランスの若者を鍛えようという意図を持っていたと言われているように、政治的な意志との関係は深いものですが、これはヒトラーベルリンオリンピックだけでなく多くの大会でそれを内蔵していました。

他にも、スラム地区を整理する口実にも使われ、施設を建設すると称して住民を立ち退かせた事例も数多くあります。

また路上生活者などを排除して見えないようにすると言ったことは日本も無縁ではありません。

大会開催地の負担額の増加はすでに住民の受け売れられる範囲を越えており、開催を問う住民投票が行われることが続いていて、それで否決され開催地への立候補ができなくなる都市も多く、開催地を選ぶことが困難になりつつあります。

このような状況では強権で統治している国(ロシア、中国?)でなければ開催はできなくなるかもしれません。

こういった動きを「スポーツウォッシング」と呼ぶそうです。

 

著者の専門の一つが「ジェンダーとスポーツ」ということもあり、女性アスリートに対する圧力にも多くのページを割いていました。

高アンドロゲン症という症状が特にアフリカの女性に多いのですが、これは男性ホルモン(アンドロゲン)が多くなるというもので、この症状の女性選手は男性化していて不公平だという意見が欧米側から出ました。

そのため、男性ホルモンを減少させる処置を施さなければ大会に出場させないという圧力がかかりました。

これを主導したのはIOCではなく国際陸上競技連盟(IAAF)ですが、同じ穴の貉です。

そのような処置は医療としての倫理に反するということで、世界医師会(WMA)は反対したので、リオオリンピックの前後数年は差し止められたのですが、そこで優勝したアフリカのセメンヤなど3位までの入賞者はヨーロッパの報道からは無視されました。

ホルモンの濃度がどの程度スポーツに影響を与えるかもまだ分かっておらず、また人為的に男性ホルモンを補充するといったドーピングではなく自然にそのような身体の状態となっている人がなぜ処置されなければならないのか、明確な理由はありません。

 

オリンピックの暗部、日本ではごく限られた容疑者だけで済ませようとしていますが、多くのものがあるのでしょう。