長年のデフレ状態を脱却するとしたアベノミクスも、結果的には失敗に終わったようですが、その原因というものを見間違えているからのようです。
少子高齢化というのがもっとも大きく直接の原因なのですが、それは決して出産奨励などで救えるものではありません。
この本で進められている論議には同意できない点も多く、特に前提条件でかなり意見が違うのですが、その解決策として示されている方策はなかなか優れたものと感じました。
それというのも、著者のアトキンソンさんはイギリス生まれでオックスフォード大学卒、その後来日して金融関係の仕事をしたのですが、退職後も日本に住んでいるという人で、その辺の「アメリカだけ見て国際と思う人」とは違い、ヨーロッパも含めて世界を知った目から日本を見るということができるからのようです。
最終章に書かれているように、本書での著者の提言は次の3つです。
1,生産性向上にコミットし、高生産性・高所得資本主義を実施すること
2,そのために、企業の規模拡大を促す統合促進策を実施すること
3,それを可能とするためにも最低賃金を継続的に引き上げること
と言われても、それが何故なのか分かりにくいかもしれません。
デフレ圧力の主要な要因は少子高齢化であるというのがポイントです。
そして、さらに経済界を野放しにしたためにまったく逆の方策を企業が取るようになっています。
それが、労働分配率の低下です。
コストを下げて競争力を上げると称し実施された賃金の低下で、労働生産性が低下を続けています。
これにさらに低賃金の外国人労働者を迎えようとしていますが、それもさらにデフレ圧力となります。
日本も含め、世界のこれまでの経済成長はほとんどが「人口増加モデル」でした。
経済成長には「人口増加要因」と「生産性向上要因」があるのですが、一般的な経済学からは生産性向上ばかりに目が向いてしまいます。
しかし、実際は人口増の要因の方が強かったようです。
アメリカが現在も経済成長が強いのも、まだ人口が増え続けているからという要因が強いようです。
しかし、それを見間違えてアメリカのやり方が優れていると勘違いし、アメリカに倣おうとすると大きな失敗をしてしまいます。
人口が減るのは簡単には変えられません。
それならどうすれば良いのか。
それは「生産性向上」を求めることです。
ヨーロッパ各国ではすでにそれを求める方向に進んでいるそうです。
そして、各国で認められている方策が「最低賃金の上昇」だそうです。
最低賃金額と生産性との間には非常に強い相関関係があります。
人件費をコストとだけ見てそれを下げれば良いというやり方は、価格競争だけで勝っていこうという、Low road capitalismですが、それを高くても品質の良いものを作り出し売っていくHigh road capitalismに転換していくことが生き残る道です。
そのためにも労働生産性を向上させることが必須であり、そのためにも賃金の上昇が必要なのです。
最低賃金引上げというと、特に地方の中小企業などで経営を圧迫するという反対が猛烈に起きますが、それが非効率で競争力のない企業を生き残らせることになっています。
それが生産性向上とも逆行する結果を生み出しています。
最低賃金というものを「経済政策」として捉えるという動きは、ヨーロッパ各国で強まってきました。
しかし、日本では最低賃金制は社会政策だと考えられています。
この所管官庁は厚生労働省であり、福祉政策の一種だと思われています。
これを経済政策と考え、厚労省ではなく経済産業省が担当するようにならなければならないという指摘は興味深いものです。
また中小企業の過剰状態は、企業間の競争も過当となり、それは生産性向上につながらず価格競争に陥ることになります。
これも、日本の生産性が異常に低い状態のままである理由となっています。
なお、それでも最低賃金の急激な引き上げは危険なようです。
ある程度の金額で、しかも毎年引き上げて目標を目指すという方策が効果的ということです。
なかなか興味深い視点からの議論で、参考になりました。