爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ニッポンの個人情報」鈴木正朝、高木浩光、山本一郎著

個人情報の保護ということがよく聞かれるようになり、また情報漏洩という事件もしばしば起きています。

また、「ビッグデータの利用」ということも言われていますが、それも個人情報かもしれません。

 

こういったことに詳しいお三方が、「プライバシーフリークの会」というものを作り、「プライバシーフリーク・カフェ」という場で話された内容を基に構成された内容です。

 

本書の元になった対談が行われたのは2014年ですが、ベネッセ・ジャストシステム問題、Suica問題といった大きな騒動となった事件も起きており、個人情報保護法の改正ということが行われていた時期です。

しかし、この専門のお三方から見ると法改正にあたる担当者自身の個人情報についての認識が間違っている場合が多いようです。

そして、個人情報を利用したいという勢力の法を骨抜きにしようという活動も激しく、危機感を持たれていたようです。

 

個人情報とは何かと言われ「氏名、生年月日、連絡先」であると考えている人が多いようです。

これは「特定の個人を識別するために用いられる情報」ですが、個人情報全体ではありません。

個人情報の保護に関する法律には、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述により特定の個人を識別することができるものをいう」と定義してあります。

この「個人に関する情報であって、当該情報に含まれる」という記述を飛ばして考えてしまうと「氏名、生年月日、連絡先」だけが個人情報であると誤解することになります。

たとえば「この人はどの大学を出て、どこの会社で何年働いて、こんなレンタルビデオを借りており、図書館でこの本を借りている」という事実が書いてあれば、これ全体が「個人情報」だということです。

 

そして、このような誤解は実際に情報を取り扱う人々にも蔓延しており、個人の氏名や連絡先を除外すれば(匿名化)それで個人情報ではないと強弁して自由に利用可能であるとしてしまうことになります。

 

JR東日本が、顧客のSuicaの使用履歴のデータを日立に渡してしまったのが「Suica問題」ですが、記名式Suicaの氏名と連絡先だけを削ったデータを渡していました。

しかし、そこだけ匿名にしても細かく見ればそのような使用をする人ということで個人が特定できることになり、そのようなデータを当人の承諾なしに第三者に渡すことは問題です。

 

こういったデータの第三者譲渡ということは、個人のプライバシーの最たるものである遺伝子の場合でも起こりうることであり、がん遺伝子の研究のためと称して入手した個人の遺伝子をそれ以外のすべてを含めて外国に渡すということも起きる危険性があります。

そうなれば、別の部分の遺伝情報を使われることもありそうなことです。

 

氏名や住所などは使わなくても、いろいろなID番号が流通しています。

マイナンバーカードは国が関わっているので、禁止項目がはっきりとされており、違反には刑事罰も用意されていますが、民間の個人番号はそういった点が甘くなっています。

現在では同じ個人番号でいろいろなサービスが利用できるという共通ポイントカードが普及しつつありますが、こういったものなどは個人情報の中でもかなり高度な内容となっています。

これを、名前が無いからというだけで第三者でも利用可能としてしまうと、そうとう広い範囲の個人の行動まで明らかになりかねません。

名簿屋という人々が居り、彼らは様々なデータを集めていますが、その中で一つの個人名を参照できる名簿があれば、すべてのデータを結びつける「名寄せ」ということができてしまいます。

ビッグデータの利活用」と言うと何か素晴らしいことのように聞こえますが、実際にはこういったプライバシーに関わる問題を公開するに等しいことなのです。

 

しかもこういった業者はどんどんと統合を繰り返しているのですが、その時には「履歴の統合は致しません」といったことを言っています。

ヤフーがTポイントと統合すると言ったのはこの2年前ですが、その時には「現時点では履歴の統合はしません」と表明していました。

しかし、1年後に実際にID連携がスタートする時にはそんな言葉は忘れたふりをしてあっさりと統合したそうです。

 

自分の遺伝子が知らない間にどこかの業者に流されて解析されているかもしれないというのは恐ろしい話です。

そしてその情報がさらに製薬会社や保険会社などに流され、かかりやすい病気の対策や、保険加入のダイレクトメールが送られてくる事態になるかもしれません。

しかも、その保険加入の勧誘は「ガンに罹るリスクの少ない人」に送られてくるということです。

「ガンに罹りやすい」人にガン保険に入られたら保険会社が儲からないからだとか。

 

怖ろしい時代になりつつあるということでしょう。