「夢の技術」というものがありますが、SFに出てくるような技術の中でもあたかも「実現性が高い」かのように言われているものがあります。
そういった技術はどういったもので、その開発の現状はどうなっているのか。
そして、もしもそれが実現したら世界はどうなるのか。
そのような観点から、生物学者のケリーさんと漫画家のザックさんのウィーナースミス夫妻が、専門家への多くのインタビューをもとに描いています。
取り上げられているのは、宇宙エレベーターなどの宇宙旅行、小惑星採掘、核融合、プログラム可能素材、ロボットによる建設、拡張現実、合成生物学、プレシジョン・メディシン、バイオプリンティング、脳‐コンピューター・インターフェースの10のものです。
各項目は、それぞれをざっと説明した後、「それで、現状は?」、「心配なのは」、「世界はどう変わる」といった話題を取り上げています。
例えば最初の「宇宙へ安く行ける方法」では、
「再利用可能ロケット」「空気吸い込み式ロケット」「巨大メガ・スーパーガン」「宇宙エレベーター」などが説明されています。
このうち一番実用化に近いかもと考えられているのは「再利用可能ロケット」でしょうが、それでもまだまだ難題が多いようです。
宇宙エレベーターもSF小説では活き活きと描かれていますが、その建設にはまず用いる素材の開発から進めなければならないようで、まだまだ夢の段階でしょう。
核融合も一度で爆発的に反応を進める水素爆弾はできたものの、それを徐々に進める方策はまだ遠い話のようです。
プレシジョン・メディシン、(精密医療)とはこれまでの多くの遺伝子解析をさらに発展させ、病気や体調などの傾向を個人の遺伝子を詳しく調べることにより的確に把握しその対処を行うということです。
遺伝性疾患や、ガンに罹りやすいかどうか、そういった情報を発症前に診断できるようになるということです。
しかし、これには大きな懸念があり、そういった「病気になりやすい」という個人情報は大きな利用価値があるため本人の意思と関係なしに使われる危険性があるということです。
たとえば、企業が人を雇用しようとするとき、「精神病になりやすい人」「内臓疾患にかかりやすい人」を進んで雇用しようとするだろうか。
また生命保険や健康保険が成り立っているのは、「誰がいつ病気になるのかわからない」からであり、「病気になりやすい人」も「なりにくい人」も同じように負担するのは不公平だという批判が出かねないということもあります。
医療というものは個人化が進むとますます保険システムというものの維持が困難になるでしょう。
最終章には、それまでに取り上げられた10の夢の技術(それでもかなり実現困難)よりはるかに難しいと考えられる「もうすぐではないかもしれないもの」もあげられています。
まあそうだろうな。
私に言わせれば、今開発されている新技術にもかなりこういった「夢を見させるだけの技術」があると感じています。
いつになったら宇宙エレベーターで月に行けて、 3Dプリンターで臓器が作れるんだい!?: 気になる最先端テクノロジー10のゆくえ
- 作者:ケリー・ウィーナースミス,ザック・ウィーナースミス
- 発売日: 2020/04/25
- メディア: 単行本