爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠」ジョセフ・E・スティグリッツ著

情報の非対称性理論でノーベル経済学賞を受賞した著者ですが、最近は特にアメリカの金融資本家への利益集中を厳しく批判しています。
アメリカの政府の政策を資金の面から支配し、自分たちの利益になるような政策ばかりを推進しており、1%の人々のみが富を得る社会となっていると主張しています。

確かにそのような社会は変えなければならず、そのために著者が様々な面から繰り返し実情を明らかにするのは間違っているとは言えません。本書はそのような観点からの記事をヴァニティ・フェア誌やタイム誌に発表したものをテーマごとにまとめたものです。

金融資本家のこのような行動は犯罪的でもあり、アメリカだけでなく全世界に害悪を撒き散らしています。ただし、このような行動を取る連中と政府が道を分かち、適切な政策で規制をすればそれで良いのでしょうか。その点がどうも疑問に思わざるを得ないところです。
このブログでも何度か書いているように、富裕層の政府操縦により政策を曲げ富が集中して格差が拡大するというのは由々しき事態ですが、それ以前に経済成長を求める資本主義自体の含む問題点というものが存在することに気付かなければ抜本的なものにはなり得ません。著者は非常に偉い経済学者ではありますが、その点についての反省は無いようです。

それは本書後半に書かれている、「成長する国々をめぐる」の中で日本について書かれている部分でも明らかです。「日本を反面教師としてではなく手本とすべし」と持ち上げ、安倍内閣発足後日本を訪れ首相を始め政権顧問たちとも議論を交わし、彼らの「認識に私は感銘を受けた」ということです。
アベノミクスの3本の矢というものにも共感を覚えるということで、これらの政策が成功すれば「構造改革が不公平の是正にもつながる」と書いています。実態はまったく異なるのは明らかであり、いくらアメリカの政府と財界を攻撃するのが目的であっても、日本の政府の欺瞞性にまったく気づいていない(もしくは気づかないふりをしている)のは底の浅い議論と言わざるを得ません。

スティグリッツの著書は何冊か読んできましたが、これで打ち止めにしても良さそうです。