21世紀に入って以来「世界が尊敬する日本人」とか「本当はスゴイ日本」などと題されたおびただしい数の書籍が刊行されています。
最近はテレビ番組にもそういった類のものがはびこっており、辟易する思いですが、実はかつても「日本スゴイ」という本が次々と出版されていた時代がありました。
それは満州事変(昭和6年)の後、太平洋戦争が終わるまでの時期であり、愛国本の洪水とも言えるようなものだったそうです。
それらは、「日本文化論」の範疇にも入るものですが、和辻哲郎や谷崎潤一郎などの名著と呼べるものとは別に、今となっては歴史のゴミ箱に入れられているようなクズ本も多数出版されました。
本書では、古典的名著というものは除外し、あくまでもくだらないクズ本だけを「厳選して」収録したということです。
そういった愛国本というものは、「日本精神」や「日本主義」といったものを唱え、それを社会や生活のあらゆる場面に入り込ませるように書かれていました。
そして、その日本精神本ブームのわずか数年後には日中戦争が本格化し、国民精神総動員運動が激化し、総力戦体制となっていきました。
これらの愛国本もそのような動きの先触れであり、それに加担したと言えそうです。
こういった「日本スゴイ」本の原型とも言えるものが1933年昭和8年に新潮社から発行された月刊総合雑誌「日の出」の一連の特別付録読み物だそうです。
国際連盟脱退をうけ、「国難来たる」「日本はまったく孤立無援となった」と危機感を煽り、しかし「日本の偉さはここだ」と鼓舞する記事を連ね、「何たる感激の書だ。国民一人残らず読め」と偉そうな広告文まで載せています。
この「日本の偉さはここだ」という記事など、最近の「日本スゴイ」番組のパターンとも酷似しているとか。
総力戦体制となってからは、兵士として駆り出された成年男性の代わりに少年や女性を工場などに動員しようという体制も強まりました。
そういった青少年や女性向けの書籍というものも多数出版されたそうです。
傑作なのが、今となっては経歴もその後も何も分からない山口県の女性が書いた文章で、
「日本国民はたくさんの炭俵をピラミッド状に積み上げたようなもので、これを一俵でも引き抜くとわけもなく崩れます」と団結を呼びかけたものです。
これに対し、著者は「途中を抜くから崩れるから、頂上の俵から抜いていけば良い」と面白い指摘をしています。
このような精神主義だけの言説はきちんと物量と補給に支えられたアメリカの軍略にあっさりと蹴散らされ、こういった文章を書いていた人々はその後どうしたのかも分かりません。おそらくは、戦後すぐに態度を改め?民主主義に邁進したのでしょう。
著者ははっきりとは語っていませんが、戦前のこういった風潮と似ている現在というものが何を示しているのか、すこし考えさせられるところです。
「すでに戦前だ」とはよく言われるところなのですが。