非常に印象的な活動を続けられている佐藤優さんが、池袋コミュニティ・カレッジというところで地政学というものについて講義をした、その記録をまとめています。
地政学というものは、最近は非常に注目されているようで、「地政学リスク」といった言葉は一人歩きしているとも言えます。
しかし、本当の意味の地政学とは何かということはあまり分かっている人は少ないようです。
地政学に関する本を出版されている人でもかなり勘違いをしているということで、本書の中でも船橋洋一さんの「21世紀地政学入門」という本を非常に手厳しく批判しています。
私も1年ほど前にこの本は読みましたが、中で「シェールガス革命」というものを非常に無邪気に信じているということから、眉唾で読んだということはあったものの、地政学というものの認識に問題ありとは思わなかったので、この部分は興味深く読みました。
sohujojo.hatenablog.comまあ、その部分は最後に書くとして、それ以外で興味深い内容を紹介しておきます。
アメリカ・ロシア・イスラエルなどの情報機関では、「最悪情勢分析」というものを実施するそうです。
今、最悪の事態が起きたらどうなるかということを具体的に、徹底的に予見すると言うものであり、一つの出来事が最悪の状況になった場合、世界はどうなるかということを挙げていくことになります。
例えば、イラン政権がIAEA合意を無視して核開発再開をしたら、10ヶ月後には小型原爆を保有する。
するとサウジアラビアがパキスタンとの秘密協定により核弾頭をサウジに移す。
さらにカタール・クウェート・オマーンもパキスタンから核弾頭を購入する。
他の地域でも核拡散が起こり北朝鮮のみならず韓国や台湾も核武装をする。
しかし、日本とドイツだけは第二次大戦敗戦国であるために最後まで核は持てない。
すると周囲全ての核保有国に対して外交だけで交渉せざるを得ず、厳しい状況になる。
というのが「最悪情勢」だそうです。
1854年に、アメリカのペリーが艦隊を率いて日本に来ました。
この時期はアメリカの南北戦争寸前の時期であり、アメリカ側の体制も弱かったためにあの程度で済みました。
もしも10年もずれていれば、アメリカはかなり乱暴な手法を使った可能性があります。当時はロシアの方がはるかに紳士的な行動を取ったとか。
日本に来る前にペリーは琉球に立ち寄り「琉米修好条約」を結びました。
その中では裁判権についても定められているそうです。
さらに琉球はフランス、オランダとの間にも修好条約を結んでいます。
その後、日本政府はそれらを無かったことにしていますが、これも歴史認識をめぐる深刻な問題の一つです。
この前、日本版GPSのための衛星打ち上げの話題がありましたが、本書でもそれについての記述があります。
これを準天頂衛星というのですが、これが7個あれば完全な日本版GPSが作れます。
現在はアメリカの衛星を使用してGPSを運用していますので、日本版を作るということはアメリカを信用していないということです。
これを打ち上げると言う計画を作ったのは自民党ではなく民主党政権の時のことでした。
この本では「安倍さんはあまりそういう難しいことはわからない。だからいろいろと威勢のいいことを言うが、実際のインフラで日本をどうやって守れるかととことになるとほとんどやらないという不思議な人だ」と書かれています。
フランスでイスラム過激派のテロが続いています。
ヨーロッパの国々では、テロ支援者や関与した者を逮捕しようとする際に皆殺してしまいます。
これはあの国々に死刑制度がないからだそうです。
裁判にかけて終身刑にしても刑務所の中で仲間を作ったりする。だからだとか。
これが「死刑制度廃止」の問題点の一つです。
国家が超法規的な処刑(逮捕時の射殺)をしてしまうという実例だということです。
さて、船橋洋一さんの著書の批判の部分です。
こういう、実名をあげての悪口というものは、非常に面白い。
「民族と宗教のような変えにくい要素が影響を及ぼす」
”民族”などというものは、非常に不安定なものであり、それを”変えにくい”と言っているところでもうダメということです。
「石油や希少資源のようなその土地でしか算出しないものも地政学的要素」
資源というものは大昔からあるもので、これは地政学的要因ではないということ。
これは”地政学”と”安全保障”との違いが分かっていない現れだそうです。
日本にとっての地政学的要素は”中国大陸”と”太平洋”です。
「日本本土を守ろうとする時朝鮮半島と台湾が重要」と書いてありますが、第二次大戦の時にはどちらも日本の領土でした。それでも守れなかった。
以上、本書著者の佐藤さんから見れば、船橋さんの認識は居酒屋論議同様だということでした。
とはいえ、この本を読んだ後で、「地政学とはなんだ」と言われればよくわからないというのが実際のところです。