シンクタンクとは「政策起業家」が集まるところだそうです。
著者の船橋さんはアメリカのシンクタンクにも参加した経験を活かし東日本大震災と福島原発についての民間での事故調査を行う組織を運営するシンクタンクを立ち上げたということです。
シンクタンクの本場はやはりアメリカでしょうが、ヨーロッパだけでなく中国やロシアにもそれらしい組織はあります。
しかし、日本では何とか総研という名の組織はありますが、どうもアメリカのシンクタンクの活動とは異なるようです。
シンクタンクとは何なのか、そして日本の問題点はどこなのかを解説していきます。
アメリカのシンクタンクは、アカデミックな分野や研究開発部門の研究成果を公共政策の作成に活かすことを主な使命としています。
1910年にカーネギー国際平和財団、ブルッキングス研究所が1916年、さらに外交問題評議会、ランド、戦略国際問題研究所などが続々と作られたのは、それぞれ第1次大戦、大恐慌、国際連盟、核戦争といった国際問題への対応を目指したものでした。
カーネギー国際平和財団が大富豪のアンドリュー・カーネギーの出資した財団を母体としたように、他のシンクタンクも大富豪の出資によるものが多かったようです。
ペンシルバニア大学の定義によれば、
「シンクタンクとは政策立案者と一般市民が公共政策についてのより良い意思決定を行うために、国内・国際問題の政策志向の調査研究および助言を行うための機関であり、永続的な組織の形をとるもの」だそうです。
アメリカではこのように「民間の独立しかつ非営利の組織」に力点が置かれます。
ただし、ヨーロッパでは政治家および政党との結びつきがかなり強い傾向があります。
また、日本のものはシンクタンクという看板を掲げていても大学や金融機関、企業の社内の調査部門である場合も多いようです。
また、アメリカでは国家の政策に関わる部分を大いに主張しているため、その主要メンバーがそのまま政権内部に参加する、いわゆる「回転ドア」が見られるのに対し、ヨーロッパではそれが無いというもの特徴です。
アメリカのシンクタンクの「政策起業力」というものも非常に強いものです。
カーネギー国際平和財団は創立者であったアンドリュー・カーネギーの理念であった「戦争の廃止」に向けて多くの活動を行ないました。
1928年に各国が結んだ不戦条約もその理念のもとに進められたものでした。
ウッドロー・ウィルソン大統領が作った研究集団をもとに作られた外交問題評議会(CFR)というシンクタンクは、第二次大戦開始の頃から「日本に勝利したあとの戦後計画」を作製しました。
日本を完全に武装解除したうえで、産業を統制するという内容は国務省に提出され、基本的にはその路線に従って実施されました。
アメリカのシンクタンクにも色分けがあり、共和党側、民主党側に分かれて政策を提案していますので、大統領選挙で政権が変わるとそれに伴ってシンクタンクから政権内部に参加する人員が入れ替わる「回転ドア」というものがあります。
しかし、今回のトランプはそのようなシンクタンクのメンバーを拒絶しました。
トランプが当選したあと、戦略問題の専門家であるエリオット・コーエン教授に対しトランプ政権移行チームのメンバーは「お前らは負け犬だ」と言い捨てました。
実は、前のオバマ政権でもそのようなシンクタンクからの政権参加はごく一部で、そういった機能はかなり減らされていたようです。
それがトランプになって明確になっただけかもしれません。
ただし、そんなトランプでも「ヘリテージ財団」というグループだけは取り入れているようです。
やはり、何もなしではできないものなのでしょう。
日本のシンクタンクというものは、これまでも何度も設立ブームというものがあるにも関わらず、その活動はそれほど大したものではありません。
アメリカのシンクタンクからは「日本はシンクタンク小国」と見なされているそうです。
その理由がどこにあるのか。
シンクタンクとは、公共政策の在り方を的確な情報とデータを基に分析し提示する「政策起業」であるのですが、日本では市民社会自体が公共政策を自ら検証し提案し、政府に代案として突き付けていくという機能がほとんどないからです。
さらに、「外交・安全保障」に関しての研究提案というものがアメリカのシンクタンクでは大きな部分を占めているのに対し、日本ではほとんど見られません。
この分野では、日本では政府の独自政策もありませんので、それを検証提案する余地もないわけです。
事実上、日本では政治家が政策アイデアを求めるのは「霞が関」でした。
このような状況では、政策評価をすることはできません。
官僚は外部からの評価などは好みません。
そんなわけで、日本の各種政策の質が下落しているのですが、これはシンクタンクの責任というよりは官僚機構の責任でしょう。
日本の政策立案には大きな変化が必要なようです。
そのために、独立したシンクタンクを設立する必要があるということですが、そこまでには大きな困難がありそうです。