爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「好戦の共和国アメリカ 戦争の記憶をたどる」油井大三郎著

建国以来常に戦争をし続けてきたようなアメリカですが、なぜそこまで好戦的なのかということははっきりとは知りませんでした。
アメリカ史の専門家である本書の著者も911同時多発テロのあとに各地で対テロの戦争を繰り返すアメリカを見てそれを疑問に持つ人が多いことを感じ、アメリカの戦争に関する歴史と国民の意識の形成を改めてまとめる必要を感じたようです。アメリカの通史を戦争に関わる部分だけ取り出してまとめるという本書は、かなりはっきりとその理由を感じることができるようになっています。

ヨーロッパ人のアメリカ入植開始当時は原住民との関係ものちの時代のように全てが敵対行為というわけでもなかったようですが、偶発的な衝突が重なり徐々に互いの認識が悪化して討伐しなければならない野蛮人という概念が固まって行ったようです。また、イギリス以外にもフランスやスペイン、オランダといった国々による植民地も混在しており、それとの戦いも頻発していたのですが、イギリスは母国から軍隊を送るというよりは植民者自身に武装させる方策をとったようです。これが実はその後もずっと続く民兵の伝統、そして現在の銃社会にまでつながるのでしょう。
その後、イギリスの植民地圧政に反抗し独立戦争が起こりますが、かなりの苦戦でありぎりぎりで勝ち取った独立だった様です。犠牲者は民間人も含めると2.5万人にのぼり、当時の人口の1%を超えるというもので、さらに独立に反対した人々が亡命したために独立直後は人口がかなり減少するほどだったようです。

その後は国としての態勢を整える意味もあり他国には干渉しないというモンロー宣言も出されましたが、これはアメリカ大陸内では自由に振舞うという意味でもあったということで、中南米に対する進出も始まりました。
また、第2次米英戦争というイギリスの進出を排除する戦争の結果、西部に進出する障害がなくなったために西進が盛んとなりまたメキシコに対する圧力を強めテキサス併合にも進むことになりました。
その結果それまで危うく保たれていた自由州と奴隷州の争いが激しくなり、南北戦争が勃発しました。
これも国内に甚大な損害を引き起こしたのですが、その理由としては武器が非常に発達し機関銃まで出現したにも関わらず、闘いの様式というものが従来のままの「決戦方式」というもので、戦闘で勝利しあとの外交で決着するというナポレオンの得意の戦術をそのまま使っていたものの、すでに南北戦争ではそのような外交交渉は行われずに南北の異なる理念の争いとなっていたために、いたずらに死傷者だけが増えてしまったためだということです。

なお、南北戦争では終了後にも多くの兵が銃を持ったまま解放され家に戻ったので、そのまま民家も武装してしまったという、現在の銃社会の起源のようなものがここから始まったようです。

しかし、その後19世紀から20世紀にかけてスペインとの間でキューバやフィリピンをめぐっての争いが起きると、戦争の結果それらを併合するという帝国主義の「海洋国家」と変貌してしまいます。
その頃に起こった第1次世界大戦で、アメリカは最後に参戦してその勝敗の決定に関わりましたが、大きな被害を受けたヨーロッパ各国に比べはるかに少ない犠牲を払っただけで、戦後の主導権を強く握るという利益を得ました。
さらに、第2次世界大戦でも戦場となり大きな被害を受けたヨーロッパ、ソ連、アジアと比べアメリカはその国土にほとんど被害を受けることなく勝利の美酒だけを味わうという経験をすることになりました。
これをアメリカ人は「よい戦争」として記憶してしまったということで、それがその後のアメリカの国としての行動に大きな影響を与えているようです。
それに味を占め?その後の朝鮮戦争ベトナム戦争を戦ったもののあまり得られるものがなくかえって従軍兵士の損害が増えたという結果に終わって、反戦運動も増加していきました。
ソ連崩壊後も地域での紛争はかえって激化し、アメリカも場合によって介入する場合も多いのですが、それが911のテロにもつながりました。これは直接アメリカの国内に被害が及んだということでは稀な例だったのですが(そのように宣伝もされているが、実は独立後すぐの対英戦争ではワシントンまで攻め込まれていることは触れようとしない)そのために国民の復讐心にも火がつけられたそうです。それを利用しブッシュ父子の政権は戦争を遂行しまいした。
ここで使われた論理は「テロリストは民主国家を憎んでいる」でした。複雑な要因をそこだけに限定することで自国民の戦意を高揚するには良いのでしょうが、かえって紛争の根を深くするばかりです。歴史的にも何度もやっていることですが。

最後に本書にまとめられている、アメリカが「好戦的国家である理由」は次のとおりです。軍事力による領土や市場の拡大を当然と考える意識の潮流が長期にわたり存在してきたこと、軍事的な勢力均衡維持を是とする「リアリズム」が存在し、それが破れた場合には軍事力行使を当然視する傾向があること、独立や国家統一の維持および国土防衛のための戦争を肯定する傾向があること、(ただしそのきっかけとなる”被害”は捏造の場合が多かった)、戦争は悲惨であるという意識はあるが「戦争を終わらせるための戦争」や「民主主義を守るための戦争」として戦争肯定をする傾向があること、(したがって”デモクラシーの先駆者である”がゆえに好戦的となっている)

そしてあまりにも「国家としての主権」を重大視しすぎる傾向が強く、少しでもそれを制限されるような場合には過剰に反応することも多い国であるということですが、今後の世界の平和のためにはアメリカといえど自己抑制をして世界協調を守ることが必要ということです。まあ当然過ぎるほど当然のことなのですが。

このように、あまりにも巨大な国力を持つがためでもあるアメリカの好戦性です。それを知りながら日米同盟をより強固にと言い、さらに共同安全保障と言う危険性は言うまでもないところでしょう。