爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本の野菜 産地から食卓へ」大久保増太郎著

著者は千葉県農業試験場にて長年野菜の冷蔵や保存など流通技術の研究を続けてこられ、農産物流通技術研究会などの会長も務められた方です。

野菜の保存などは品目によって大差があり、冷やした方が良いもの、逆に冷やすとダメなものもありますが、この本では野菜の品目別にそういった性質や野菜の成分など、流通販売の方向からの見方で書かれており、意外に知識の行き届かないところだったかもしれません。

 

野菜は収穫後も呼吸をしており、それにより熟するということもありますが、老化が進むという面もありそうです。

呼吸という面では野菜は大きく3種に分かれ、収穫直後に最も呼吸が旺盛でその後低下するものが最も多く、キャベツホウレンソウなどが属します。

また、収穫直後は呼吸が低く、時間がたつにつれ増加する末期上昇型というものもあり、イチゴがそれに入ります。

三番目は収穫後いったん下がった呼吸がある時点から急速に上昇しその後低下するというもので、トマト・リンゴ・バナナがこれに属するようです。

 

そこでトマトの保存での鮮度保持のためには、低温で呼吸を抑えできるだけ老化の進行を抑えることがポイントになるそうです。とは言っても凍ってしまうとダメなので零度が貯蔵適温になります。

一方、ピーマンなど熱帯原産の野菜はナスやキュウリと同じく5℃程度でも低温障害を受けて腐ってしまうので、10℃程度が貯蔵適温になります。

 

呼吸が盛んな野菜は流通中にも温度が上昇してしまい、段ボール箱に詰められて出荷されたサヤインゲンが出荷直後に27℃であったものが翌朝のセリの時には41℃まで上がってしまったことがあるそうです。

 

サツマイモは秋に収穫されたものを翌年までうまく貯蔵することが必要ですが、それのためにキュアリング貯蔵技術というものが開発されたそうです。これは34℃から36℃(現在は少し下がって30℃)の温度で湿度を95%以上にし120時間保持することで黒斑病の病原菌を抑え表面のコルク層を形成させて保存性を高めたそうで、この技術の開発で長期貯蔵が可能となったそうです。

なお、ジャガイモでも同様の処理が行われますが、その温度は低くソフトな処理になるそうです。また保存温度が低すぎると糖分が増えるのですが、ジャガイモの場合は糖分が過多になるのはかえって品質低下となるために抑える方向で保存するとか。

 

とろろ芋として食べる山芋にもいろいろあるとは知ってはいましたが、自然薯というヤマノイモナガイモヤマトイモ(これにも数種あり)とは種が違う別系統の品種だそうです。とろろとして食べる食習慣は最近は減ってきているものの、山掛けや洋風料理にも進出して消費量は増えているそうです。

 

野菜品目それぞれで保存・流通は検討が重ねられ鮮度保持の技術が開発されてきました。そのおかげで多くの野菜を楽しめるようになってきたのでしょう。