爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「生物兵器と化学兵器」井上尚英著

著者は九州大学医学部の名誉教授で、神経内科が専門のために在職中には炭鉱事故の一酸化炭素中毒患者やスモン病患者、水俣病などの患者も診察していたために、産業での中毒事故にも研究を進めたそうです。

そのために化学兵器としての化学薬品の研究もされ、神経剤の研究をしていた時にちょうど松本サリン事件が発生しその鑑定も担当したということです。

生物・化学兵器についてのまとまった資料が無いことが問題と言うことで自分でまとめるということとし、その一般向けとして本書を新書版で出版しました。

 

化学・生物兵器は最近ではテロに用いられる危険性が強くなっていましたが、第1次世界大戦では広く実戦で使われ多数の被害者を出しました。その後戦争での使用を制限するという動きが強まったものの第2次世界大戦でも使用され、さらにその後も非公開のものも含めて研究は続けられているようです。

 

化学兵器各論にはサリンやVXなど、オウム真理教事件で有名になった化学物質がいくつも出てきます。これも化学兵器の歴史の中で特筆すべきものなのかもしれません。

またマスタードガスは第1次世界大戦で広く実戦使用されましたが、今でも使用のうわさが絶えないものです。

 

生物兵器では病原菌や生物毒素の使用が実現しています。古くは中世の戦いで伝染病で死亡した死体を敵陣地に投げ込むということも行われ、実際に伝染病の蔓延を引き起こしたこともあったようです。当時はまだ伝染病の病原体は知られていなかったはずですが、病死者に触れると発病するという知識はあったようです。

また日本の中国駐留軍の731部隊による生物・化学兵器の研究と言うのも有名な話で、この研究者はその後戦争犯罪の追求を逃れる代償としてアメリカに研究成果を伝えたそうです。

 

生物兵器では炭疽菌が有名で、アメリカでテロとして実際に使われていますが、郵便として送られた炭疽菌が漏れ出して感染することもあったようです。封筒には結構大きな穴が開いておりそこから簡単に炭疽菌の芽胞が拡散するようです。

 

生物兵器としての病原菌は、作成する側にも被害を及ぼす恐れもありなかなか取り扱いが難しいのではないかと思います。また人工的に増殖させるのも簡単ではないものも多く、利用可能性があるものは限られているのではないかと思います。

 

戦争での使用は現在では厳しく禁止されていますので、国家間の戦争で使われる恐れは少ないのですが、やはりテロでの使用が危惧されます。オウム真理教の事件はその意味でも世界各国で関心を集めたそうです。その対策というものも各国で進められており、その中で日本の取り組みは遅れているようです。

万全の対策というのは難しいのかもしれませんが、一つ一つ進めておいてもらいたいものです。