爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界遺産にされて富士山は泣いている」野口健著

登山家で、各地の山々の清掃登山といった活動で知られている野口さんが、世界遺産といっても「文化遺産」で登録が一応決まった富士山について問題点を指摘しているというより、「激しく嘆いて」います。

昨年2013年に富士山が世界文化遺産となったということは嬉しいニュースとして全国で喜ばれていたようですが、実はそこには数多くの条件が付けられており、それがクリアできなければ登録できない、または「危機遺産入り」という事態も十分に有得るということはほとんど報道もされていなかったということです。そういえばあまり目にしたこともなかったように思います。
条件といってもこれさえクリアといった具体的な内容ではないので対処も難しいかもしれませんが、あまりにも多い登山者のための施設などがそぐわないとか、山小屋までの物資をブルドーザーで上げている問題とか、5合目付近のドライブインの状況とか、さらには富士五湖周辺の観光施設まで問題化されているようです。
また、文化遺産といいながら昔の富士講と言われる信仰的な登山の形態を残すでもなくいい加減な形にしているというのも、文化遺産と名乗るには問題がありそうです。

著者も最初のうちは世界自然遺産入りを目指すための環境整備というところで協力をしてきたようですが、あまりの惨状とそれをどうしようともしない関係者への幻滅から、ある時期から協力を辞めてしまったそうです。その挙句に自然遺産は無理だからと文化遺産入りという不自然な形での世界遺産登録ということになり、経緯を知らない人々から著者にお祝いを言われるという苦い思いもあるようです。

対策が進まない一因には、富士山とその周辺を取り巻く人々が複雑な関係を持っており、さらに観光利権など利害関係もあることによります。山頂は富士浅間神社の私有地であるということもあり、また山梨県と静岡県に半分ずつ属しているということもあり、誰がリーダーシップを取れるかということは難しく結局誰も責任を取りたがらないということになっています。
この辺のところは小笠原での石原元都知事とは違った状況であるのかもしれません。世界遺産となることがゴールではなく、遺産として守っていくスタートだということでしょう。

付けられた条件がどの程度対応できたか、その期限は2016年の2月だそうです。あと1年ちょっとでどのようになるのでしょうか。登録取り消しなどといった事態もあり得るようです。その可能性も強いように感じます。