ジオパークは世界遺産と同様にユネスコによって推進されている運動ですが、世界遺産ほどの知名度は無いようです。
しかし、日本列島というのは地学的な眼から見るとその様々な現象が集まっているかのような場所であり、2021年の時点で世界遺産認定が23であるのに対し、ジオパークは43地域も認定されています。
そこには日本列島という場所の特異性があり、さらにそこに住む人間たちが自然の驚異を活かしながら暮らしてきたということが関係しているのでしょう。
そのようなジオパークの数々について、その成り立ちの歴史から関連する地理的条件などを地球科学者の神沼さんが説明するという内容になっています。
本書では最初に日本列島の成り立ちを地球科学的に解説した後、火山、山岳地帯、湖水、河川の造る地形、氷河地形、海岸線、さらには自然崇拝と信仰まで章を分けて説明しています。
各部の説明は分かりやすく妥当なのでしょうが、写真が掲載されているのは良いとしても私の希望としては説明されている場所の地図があればもう少しイメージがつかみやすかったように感じます。
各地の相互関係などを把握するにもそれがあった方が良いのでは。
内容については広範囲かつ詳細なためとても概略を紹介することもできないためここでは遠慮しておきます。
なお、興味深かった点として、火山研究の最近の大きな進歩によってかつての記述がかなり変わってきたということが挙げられていました。
プレートテクトニクス理論が広まって後は、火山の分類としては「東日本火山帯フロント」と「西日本火山帯フロント」のみに集約されてしまったのですが、それ以前は火山の成因がよく分かっていなかったために、地域ごとにまとめて分類と言うことが行われていました。
その用語として、千島火山帯、那須火山帯、鳥海火山帯、富士火山帯、乗鞍火山帯、白山火山帯という分類用語が用いられていました。
しかし、こういった分類にはあまり意味が無いことが判り、ほとんど使われなくなってしまいました。
私の若い頃にはまだこういった用語が使われていたのを覚えています。
日本の東南側にはプレートの沈み込みに伴う深い海溝が並んでいます。
かつて、一部の地球物理学者の間で「海溝に核廃棄物を捨てる」というアイディアが出ていたそうです。
しかし自国の廃棄物は自国内で処理ということが原則ということで、このような考えはあまり真剣に討議されることもありませんでした。
現状ではしかし核廃棄物の処分方法が少しも進展しているとは言えません。
これは日本ばかりではなく世界各国でもほとんど同様です。
海溝だから捨てても良いとは言い切れませんが、検討と実験を行っても良いのではないかというのが著者の意見です。
ジオパークという論点からは少し離れるのかもしれませんが、巻末に紹介されている山岳信仰についての記述は興味深いものでした。
富士山や白山、石鎚山など山岳信仰の対象となり信仰登山が行われた場所は各地にあるのですが、修行者が登った形跡があるという山は各地にあるようです。
北アルプスの剱岳は明治時代になってようやく登山ができるようになった山なのですが、そこに初めて登った人が見たのは山頂に残された奈良時代のものとみられる錫杖の頭部と短剣、そして焚火の跡だったそうです。
装備もほとんど無いも同然の時代に高山に登ったのはどのような人だったのでしょうか。