爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ベースメタル枯渇」西山孝・前田正史著

著者の西山さんは京都大学名誉教授、前田さんは東京大学理事ということで、どちらも資源・材料関連学の専門家です。

少し前に中国がレアメタル輸出を制限するということで大騒ぎになりましたが、そればかりではなく本書題名にもなっているベースメタルについても今後の需給という点では大きな不安がありそうです。
これらの中でも、実際に資源量が少なくて枯渇の怖れのあるものもありますが、存在量は多くても採掘から精錬という産業が整わずに流通できないという資源もあるようです。レアアースではどのようなものが必要かということ自体が流動的で、例えば蓄電池の今後の製造がニッケル主体になるのか、リチウム主体になるのかで資源の供給産業がどちらに傾くのかが大きく変わりますが、現時点ではまったく予測ができません。しかし、ニッケル産業もリチウム産業も準備をしていかなければイザという時に間に合わないという事態になりかねないということです。外れた方は壮大な無駄になるわけです。

資源の供給可能年数を「耐用年数」というそうですが、これはあくまでも現在わかっている資源量を生産量で割っただけのものであり、今後の資源探査によりどんどんと変わっていくもののようです。だからと言って安心はできず、探査もだんだんと困難になってきている状況のようです。
現在分かっている資源の存在でも含有量の低い「低品位資源」というものが多数あり、それらは現状では利用されないものの今後の資源情況によっては利用することも有得るということで、これも予測を難しくしている要素のようです。

大きな流通があるベースメタルでも、鉄と銅では状況が異なり、鉄資源はあちこちに存在し探査しやすいのですが、銅資源はなかなか発見できず今後も電気関係で需要が増えていくと供給が危なくなることもあるようです。しかし、鉄も絶対大丈夫というわけではなく、中国がインフラ整備をさらに加速していき、日本並みまで行くとすると世界の鉄のほとんどを使ってしまうことにもなりかねないとか。

レアアースなども産業廃棄物からのリサイクルが可能ということで、「都市鉱山」などという言葉もありますが、実際に現在回っているのは金やプラチナなどの貴金属だけで他のものは経済的に合わずにそのままにされています。潜在的な資源ということで、都市鉱山という見方もできますが、それまでは廃棄物として貯めておく必要があり、難しいものかもしれません。

メタル市場は埋蔵量、生産量ともに非常に偏在しているものが多く、ニオブ・タンタルはブラジル、白金は南アフリカにほとんどが存在し他にはないというものがいくつもあるようです。これらの資源への依存が増えればそれらの国の意向次第という面も出てくるかもしれません。

一つ意外に感じたのは、シリコンの供給でした。シリコンなどは地球上のどこにでもあるので資源供給に不安はないと思っていましたが、現在の供給は中国が半分以上を占め日本もほとんどを中国から輸入しているとか。今後の製造は大丈夫なんでしょうか。

また、本書の最後には出版間近となった時に起こった東日本大震災原発事故に関連してエネルギー需給に関する記述も見られます。
ドイツの原子力からの撤退と再生エネルギーへの移行というのはあちこちで語られていますが、このところのドイツのエネルギー消費は伸び続けていて、脱原子力で減少した発電量は化石エネルギー増大で賄っており再生エネルギーの増加は間に合っていないようです。しかも電力料金の上昇は高いもので、日本並みになっているとか。

現代は情報はさまざまなものが多数出回っているものの、よく吟味して見ないととんでもないものに振り回されることもあるようです。レアアース関連でも新技術開発といった報道がされてレアアースが無くても大丈夫という言われ方もされますが、実用段階になるかどうか分からないことで資源産業を云々することはできないようです。
長期的で安全を見越した政策が必要なようです。