爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「原子炉時限爆弾」広瀬隆著

作家ですが原発告発の活動を長く続けておられる広瀬さんが、2010年に原発の危険性を訴えたものですので、まだ福島原発事故以前の話です。
したがって、もっとも危険なのは東海地震の脅威にさらされている浜岡原発であるということですが、もちろん日本国内のどの原発も同様に危険であるという主張です。
その筆致は厳しいもので、電力会社、政府、御用学者を激しく糾弾しています。

そもそも原子力発電開始の頃の地震に関する学問というものはまだ全く初期段階であり、何も分かっていないに等しいものでした。そのような状況での断層の調査や地質調査といっても不十分なもので学術的な価値も乏しいものですが、それらの結果から建設可否を判断して作られたもので、その後の地質学の発展でさまざまな結果が得られてももはや全くそれを取り入れようとはせずに原発運転を続けているのが電力会社と政府だそうです。

大陸移動説とプレートテクトニクスという現在の主要学説も考慮されていません。したがって、どのような大規模地震が起こるかという可能性も学説の一つとしては存在するという立場でも原発を廃棄するという結論には至らないようにされているようです。

もはや記憶にもとどめられていない程度のものですが、2009年に静岡県で駿河湾地震という震度6弱地震があり、浜岡原発でも緊急停止はしたものの設備に被害がでていたそうです。また2010年には福島第一原発電源喪失の事故が発生しましたが、それと地震の関係は認められなかったものの疑われるようです。

これらのように、原発建設時の想定をはるかに超える地震が実際に起こっており、その影響も出ているにもかかわらず何の対策もなしに安全だと言いつづけていたのが電力会社だったそうです。その結果が福島原発事故につながっていたということでしょうか。
著者の先見性と、それが伝わらない体制に改めて衝撃を受けます。各地の原発で再稼動を認めるかどうかの問題で、敷地の中の断層を掘り返してはあれこれ言っているという理由も分かります。そこから一つも進歩していないということでしょう。
福島は奇跡的にあれで止まっているという認識がありません。今度あれば止まらないかも知れません。そうなれば日本に人は住めなくなるでしょう。