著者はルポライターということですが、ノーベル賞受賞者の業績の記述も極めて妥当で分かりやすいものと思います。前文に助言を頂いた科学者の方々に謝辞が述べられていますが、ご本人に相当な素養がなければ書けなかったものでしょう。
本書は2009年出版ですので、2008年の小林さん、益川さんの物理学賞、下村さんの化学賞までの記述となっています。そのあとも面白い受賞者が居られるので続編も期待したいところです。
なお、物理、化学、生理・医学賞のみについて語られており、他の賞は触れられていません。
最初の受賞者湯川秀樹博士が受賞したのは1949年ということですが、次の朝永振一郎博士まで相当時間が空いています。しかし、このお二人は中学から大学まで同窓だったそうです。性格にもかなり違いがあり、湯川博士がまじめ一方だったのに対し、朝永博士はユーモアたっぷりの方だったそうです。また、朝永博士が後進の学者に対してさまざまな援助と配慮をされていたということで、その後の物理学者の輩出にも関わっていたようです。
化学賞の福井謙一博士も後進の指導には大きな功績を残していたようで、当時の化学の理論家の半数以上は福井門下ではないかと言われていたそうです。
導電性高分子の白川英樹博士は打って変わって、今後の望は何かと聞かれ、できるだけ公の職から退くことと答えられたそうです。これも一つの性格なんでしょう。
不斉合成反応の野依良治博士は現在は理化学研究所の理事長を勤められておりますが、ノーベル賞を取るまでの研究と現在の職とはどちらが大変なんでしょうか。
カミオカンデの小柴さん、タンパク質質量分析の田中耕一さんもかなりユニークな人柄であることは確かでしょうが、最近の人達は受賞決定時からかなりの報道量がありますので、いろいろと話も溢れています。
ノーベル賞だけが科学ではないのですが、やはり注目度が一番でしょう。これからも目指していく人達は多いのかもしれません。