爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「旧石器遺跡捏造」河合信和著

もうかなり以前になりますが、20世紀最後の頃に、それまではせいぜい2-3万年前の遺跡しか見つかっていなかったのに、立て続けに数十万年前の石器が発見され、挙句の果て、百万年前まで遡ると言うことになってあれよあれよという思いになったことがありました。
しかし、それが2000年の11月になって毎日新聞のスクープで、一連の石器の発見者の藤村新一が自ら埋めたものを掘り出したという捏造であることが分かりました。
それまでの発見もすべて捏造であり、学校の教科書にまで載るようになっていた日本の旧石器時代というものは瞬く間に消えうせてしまいました。

この本はその顛末について朝日新聞記者で考古学などにも造詣が深く、旧石器発見の報道にも関わってきた河合さんが書いたもので、考古学研究者の見方とは若干違うものがあるかもしれませんが、その分、わかりやすく書かれているのかもしれません。

藤村新一は考古学研究者でもなく、一介の愛好家であったのが歴史的な発見を相次いで行ったことで一定の権威を身に付けていきます。しかし、それもどうやら最初から捏造であったようです。そのうちに周囲の考古学者や発掘担当者も逆らえなくなるような雰囲気となり、さらに独走を許してしまったようです。

しかし、この本の著者は他の関係者の責任はあまり問うことなく、藤村の単独犯行という感じで述べていますが、どうやら他の書籍の著者には共犯的な存在もあったという主張もあるそうです。たしかに、アマチュアの発掘愛好家がいくつか石器を掘り出したからといって簡単に認めさせられるのも不思議な話で、相当な専門家の関与も疑われます。

毎日新聞のスクープもそれほど考古学に深入りしていなかったからこそできたようです。このあたりもマスコミも含めて他の方面で反省すべきところがないか考えてもらいたいところでしょう。

その後はすべて憑き物が落ちたかのように何事も無かったかのような雰囲気になっています。それでよいのでしょうか。