中世軍記文学の研究が専門の早稲田大学教授の日下さんの研究内容紹介のような本です。
いくさ物語というと、鎌倉時代に源平合戦時の戦乱を題材に作られた、保元物語、平治物語、平家物語、承久記などのものですが、名前だけは知っていたものの内容はまったく触れたことはありませんでした。
同様な物語は、世界各国でも様々なものがあるようですが、この時期の日本の物語はただ勇ましいばかりでなく、親子、男女、主従間の人間関係の機微についてもあれこれ扱っており、深みのあるものになっています。
成立した時代は鎌倉時代中期ということで、実際に関係した人々がまだ存命であったようで、その後のそれらの人々の影響で記載内容にもさまざまな力が及んでいるということもあるようです。
また、実情を知るものが多くいるにも関わらず、相当なデフォルメもされており、注意しないと間違うこともあるそうです。
表面的にはほとんど何もないかのような平安時代が続いてきた後に急に戦火の中に放り込まれたような当時の人々はその経緯も大きな衝撃をもって捉えたものと思います。その中で特有の発展を遂げた軍記物語というものは、なかなか奥深いものがあるのかもしれません。