爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ゆとり教育から個性浪費社会へ」岩木秀夫著

ゆとり教育から学力重視への回帰と言う点についていろいろと言われていますが、産業社会も含めた社会構造との関係から教育システムについて教育社会学が専門の日本女子大の岩木教授が書かれた本です。さまざまな方面についても非常に詳細に書かれていますので、ちくま新書版ですが内容はかなり難しく大学の教養課程以上のものが含まれているかと思います。

ゆとり教育への転換というものは、それ以前の知識偏重の詰め込み教育と言われたものからの変換という建前でなされましたが、実はその当時の日米間の貿易収支の不均衡から日本の「働きすぎ」批判が起こり(今となっては懐かしい響きですが)それの是正と言うのが大きな意味で、半ば強制的に授業時間の削減、土曜休日化というのが行われてきたようです。

しかし、欧米ではその当時からすでに製造業中心の産業社会から情報サービス業主体の社会への変化に伴い求められる人材の質も変化して行き、それに対応する教育の変化という面も求められつつあったようです。日本ではそういった視点が欠けており、何をすれば良いのかが討論されないままゆとり教育化ということがなされ、またそれから時をまたずにその失敗と言うことも言われてきています。

一昔前の詰め込み教育というのは、実はその当時の製造業主体産業社会にはふさわしい人材教育であったかもしれません。すなわち、命令されたことに疑問を持たずに従うと言う能力です。昨今の若者が「支持待ち体質」であると批判されることもありますが、実は昔からそのような人材ばかりを作っていたのが日本教育かもしれません。

それでは今後求められる人材を作るような方向に教育は向いているのか。単に受験に強い人間を作っていこうとしているだけのように見えますが。そういった視点を持っている人はどれほどいるのでしょう。