書店でも図書館でも、「食品と健康」といったコーナーは「◯◯は体に良い」とか「✕✕は健康に悪い」といった本が所狭しと並んでいます。
そのほとんどは科学的な証拠など無いものや、量的な検討を無視していたりといった論法を使い、本を売るためや商品の宣伝といったもので、読むに耐えないものがばかりですが、この本はそれらの棚に並んでいても中身はちょっと違うものでした。
著者の稲島さんは、紹介をじっくり読むと東大病院の医師ということで、だから良いとも限りませんが、非常に医学的なエビデンス(科学的根拠)を大切にして正確な内容を書こうとされているように感じました。
様々な食品やサプリが「健康に良い」と宣伝され売り込みを図られていますが、その根拠は非常に薄弱であり、たとえ「医学博士」なる肩書で推薦されていても怪しいものが多いようです。
本書では、そういったものを「サプリメント」「ダイエット」「脂質」「塩分」「食物繊維・野菜」「ヨーグルト・ドリンク」という項に分けて説明しています。
ただし、すべてを批判しているというわけではなく、食物繊維についてはできるだけ摂取する方が良いと推薦されています。
サプリメントは、本書冒頭に置かれているように、非常に問題点が多いものがほとんどです。
特に、これらは商品として売上アップを図るためにテレビCMなどで大量に売り込まれているものが多く、一見医学的な根拠をうたっているものもあります。
本書で紹介されているのは、世界各国で実施されている研究をまとめることでできるだけ正確な情報を得るという「メタ解析」という手法によっており、妥当な結論が引き出されていると思います。
なお、やり玉に上がっているのはコラーゲン、コンドロイチン、グルコサミン、カルシウムといったものです。
カルシウムを摂取しても骨折が防げるわけではなく、かえって死亡率が上がるというのは意外な結論でした。
カルシウムの過剰摂取は血管の石灰化を引き起こし心血管死につながる恐れがあるそうです。
カルシウムの摂取量と死亡率の関係を見たグラフでもU字型となり、少なくても多すぎても死亡率が上昇するという結果が出るのですが、食物繊維についてはU字型を取らずに単純減少曲線を取るそうです。
つまり、食物繊維は過剰摂取の害が無く、取れば取るほどよいのだとか。
ただし、野菜を多く摂るというのは良いのですが、例えばβカロテンのサプリをとったほうが手っ取り早いかというとそうではなく、βカロテンのみを摂取すると死亡率が上がったという結果も出ています。
どうやら、手っ取り早く良い成分を多く摂取というのはとんでもない落とし穴があるようです。
ビタミンEやマルチビタミン製剤といったものも何らかの原因で死亡率を高めるという研究結果もあるようです。
ヨーグルトも健康に良いと考えられていますが、その効果は不明なものが多いようです。
腸炎に対しては効果はありそうなのですが、その他の健康効果というものは厳密な検証では確認されていません。
「免疫力を高める」ということが言われますが、実は現代日本人では「免疫力が足りない」というよりは、「過剰な免疫」の悪影響の方が強くなっています。
膠原病やアトピー性皮膚炎、アレルギー疾患といったものは、免疫力過剰の影響と言えるかもしれません。
ヨーグルトでアレルギーが減るという説もありますが、ヨーグルトは免疫力を上げるという説とは全く逆で矛盾しています。
一部の研究者も巻き込んだ食品と健康の関係の解明は多くの情報を生み出しており、それを使った商法も増え、一般消費者が混乱する状況はさらに多くなっています。
単なる動物実験の結果で効果が出たといった段階でも大々的に発表されることもあり、それに惑わされることもあるようです。
注意していきたいものです。
世界の研究者が警鐘を鳴らす 「健康に良い」はウソだらけ 科学的根拠(エビデンス)が解き明かす真実
- 作者: 稲島司
- 出版社/メーカー: 新星出版社
- 発売日: 2018/03/20
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る