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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「物語 食の文化」北岡正三郎著

著者の北岡さんは京都大学農学部農芸化学科を卒業後、京大、島根大、大阪府大で研究を続けられ、大阪府大名誉教授でしたが、昨年亡くなられたようです。

農芸化学の中でも栄養学がご専門のようですが、食文化などにも造詣が深く、本書はその方面での膨大な知識をまとめられています。

 

「物語 食の文化」と題されてはいますが、内容は食物、食文化等についての詳しい百科事典のようなものであり、これ一冊を参照すればかなりの程度まで「知ったかぶり」ができそうです。

 

その幅広い内容は、まず米や小麦、そしてそれの加工品、魚介類、肉類、野菜等々の食材に関するもの。

ついで、それを加工した食品各種についての記述。

さらに古今東西の、台所、料理、食器

さらに、食事の回数の地域的、歴史的変遷まで詳しくまとめられています。

 

最後に、日本・中国・西洋の食文化小史として簡潔にまとめたものが付されています。

最終章「これから」では現代の食事情から問題点、さらに今後の食生活の不安などまで触れられており、その範囲の広さには驚かされます。

 

もちろん、一つ一つの記述はスペースの関係もあり要点だけとなっていますが、さらに詳しく知りたい向きには参考図書類のリストも完備しており心配はありません。

 

人類が農耕を始めたことにより、主な食料としては米、小麦、とうもろこしが利用されたのですが、これらはすべて「イネ科植物」でした。偶然なのか必然なのか分かりませんが、イネ科植物の実を食べる動物は人間の他は小鳥とネズミだけだそうです。

イネ科植物の実は小さいのですが、その内容はでんぷん質が豊富でカロリーが高い上に毒性が少ないという好適なものでした。

 

肉食は原始時代から狩猟で獲った動物を食していたのですが、農耕時代のやや前から牧畜が始まっていました。

家畜の繁殖や飼養の仕組みを上手く利用して根絶やしにしないように少しずつ食べるという知識がそれを支えてきました。

さらに、動物の母乳を横取りする知恵が酪農を産み出したそうです。

なんとずる賢いのが人間であること。

 

豆類は世界各国で様々な種が栽培され食用とされていますが、実はイネ科植物より早く石器時代から栽培されてきたそうです。

大豆と小豆は東洋原産であり、その利用も中国や日本で高度に行われてきています。

インゲンはアメリカ大陸原産ですが16世紀以来世界中で栽培されるようになりました。

 

ジャガイモ・さつまいもは南米原産です。これが世界中に広がり、特にジャガイモはヨーロッパで食料事情を支える大きな存在となりました。

日本ではサツマイモが救荒作物として利用され、すっかり定着しています。

 

人間の食べ物はほとんど加熱されて食されますが、その加熱方法は時代と地域により大きな差があり、中国にはカマドは発達したもののオーブンはできませんでした。

そのために、中国ではオーブン料理のような焼き物は少なく、逆にヨーロッパでは蒸し料理が発達しなかったそうです。

 

刺し身に代表される魚介類の生食は日本食の特色です。

刺し身の原型は中国の膾(なます)で、鳥獣肉を細切りして生で食べたのですが、中国では13世紀には膾の伝統は絶え生食はなくなりました。

日本では中国より膾が伝来した後に宮廷などで食べられていたものが、室町時代以降は庶民にも広がったようです。

付けて食べる調味液も醤油が発達する江戸時代以前はいろいろなもので食べていたようです。

海外では生食をすることはほとんど無く、わずかにフランスなどで生牡蠣が食べられる程度のようです。

肉もごく一部で、ヨーロッパでタルタルステーキ、朝鮮でユッケで牛肉を食べる程度とか。

 

一日三食食べるのは現在では世界中同様ですが、こうなったのはごく最近のことで、ヨーロッパで15世紀頃からということです。

古代には古代エジプトギリシャでは三食食べたそうですが、それ以外の地域では一日二食、ヨーロッパでは正午ごろと夕方に食べるのが普通でした。

日本では朝と夕方に二食だったのですが、職人や兵士、農民などはさすがに空腹になるため途中で間食するようになったそうです。

 

他にも興味深い内容が多々あります。キリがないのでこの辺で。

またそのうちに項目別に取り上げて書くかもしれません。

 

 

物語 食の文化 - 美味い話、味な知識 (中公新書)

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