勝手なことばかり書いている「気ままなエッセイ」シリーズですが、今回は新たに「生物」のカテゴリーを設け、「微生物の話」というコーナーをしばらく書かせてもらいます。
大学で農芸化学を学び、就職は発酵会社だったので、その後の長い期間は微生物に関係する職を担当してきました。
会社ではいろいろな職種を転々としたために、扱った微生物も多種にわたります。
特に、研究所在職中は会社の保有する微生物の保存管理や分離同定といった業務も担当した期間があったために、通常では取り扱わないようなものまで扱う経験をしてきました。
そんな話は普通の方には理解しがたいものかもしれませんが、どうせ元々読者のことなどほとんど気にもかけずに書いてきたブログですので、自己満足で書かせていただきます。
というのも、会社を退職しそろそろ5年になりますが、だんだんと会社の頃の事柄などが思い出せなくなってきました。
(まあ嫌な思い出は頭の中から追い出したいということなんでしょうが)
少しでも記憶が残っているうちに書き留めておいて、自分でも後から読み直してみたいという気持ちもあります。
そんなわけで、自己満足の「微生物の話」勝手に始めさせていただきます。
なお、このシリーズは「仕事」には重点をおかず対象の「微生物」に焦点を当てて書いていきます。
第1回 Saccharomyces cerevisae (サッカロミセス セレビシエ)(微生物学名の読み方についてもいずれ詳説します)
これはいわゆる「アルコール発酵酵母」ですが、この種にはすべての酒造酵母とパン酵母なども含みます。
会社に入って最初に担当したのは「醸造用アルコール製造部門」でした。
そこでは砂糖を取った後の「糖蜜」というものやトウモロコシ、甘藷などを発酵させてできた醪(もろみ)という液を蒸留してアルコールを取り、日本酒添加用や焼酎用に販売するところです。
その当時はまだ輸入した糖蜜を水で希釈し、酵母(これがSaccharomyces cerevisiaeです)を加えて30℃程度に保温して発酵させました。
醸造酒各種の発酵の場合は香味成分なども関係するために酵母も精選して使用するのですが、アルコール発酵の場合はとにかく速く大量にアルコールができることという観点から選定された酵母を使っていました。
種母担当の業務もやったことがありますが、3リッターほどの大きなフラスコに糖蜜液を作り、そこに種菌を加えて発酵させ、よく増殖したものを現場タンクに添加すると言ったものです。
とにかく旺盛な増殖力を示しますので、その後担当したような抗生物質発酵などと比べると無菌操作の必要性も薄く、ややずさんとも言える操作で十分に発酵させることができました。
この酵母は電子顕微鏡などで見ると卵型のきれいな形をしています。
分裂する時は芽を出すように子供の細胞が出芽し分かれるという形態をとりますが、その写真も何度も撮ったものです。
酵母というのは微生物の中でも「真核生物」に属するもので、細胞核を持つ細胞構造がその特色です。
これは動物・植物なども同様であり、細胞構造だけ見ればこれと共通するものです。
真核生物の中でも微生物に属するものを「真菌類」と呼ぶこともあり、カビやキノコなどとも近縁です。
酵母も動植物同様に「有性生殖」を行ないます。ただし、ほとんどの酵母では分裂などの「無性生殖」で増殖し、その有性生殖世代を見ることは稀です。
発酵会社生活の最初はこの微生物から始まりました。