爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「”年収6割でも週休4日”という生き方」ビル・トッテン著

最近になってこの著者のお名前を知り、ブログを読んでその考え方の一端に触れましたが、行きつけの図書館に御著書がありましたので読んでみました。

ビル・トッテンさん(日本に帰化したので本名は”トッテン・ビル”だそうです)はアメリカ生まれですが日本でコンピュータソフトの会社を立ち上げて社員800人という企業にまで育て上げ、その後日本に帰化されたということです。
ブログを読んでも分かるように現在の経済情勢については非常に厳しい予測をしており、近い将来に日本ばかりでなく世界的に激しい変動に直面するだろうという見通しを持っています。
そのような見通しを持ちながら、かなりの規模の企業経営もされているということが両立するものかどうかということにはどうしても不信感を抱いていました。企業経営というものはかなりの部分はドロドロとしたところもあるという観念がありましたので、経済情勢の見通しをするという理性的な面と、人事管理まで含めた企業経営とは別の面があるはずという固定観念に囚われてしまいました。

しかし、どうやらビルさんは企業経営においても自らの経済予測を十分に考慮に入れながら800人の社員の今後の生活までしっかりと考えておられるようです。それがこの本の表題の「年収6割でも週休4日」というところに現れています。

ビルさんは経済予測として近い将来に急激な変動があり、経済規模が半減することもありうるという可能性を考慮に入れています。これは各社の努力云々などといった程度の話ではなく、全世界的な経済環境の変化から来るものであり、主としてエネルギー供給が需要を満たせなくなるということから不可避であるという見通しによります。
著者はそうなった場合でも自らの会社の社員を絶対にリストラなどと称して解雇することはしないと言い切り、社員にもそれを公表しているそうです。ただし、会社の収入は相当減るであろうことから、それに従って社員の給与は下げていくということ、なおかつ給与を下げる以上は勤務時間も減らしていくという方針を立てています。それが本書表題の「年収6割で週休4日」ということです。

ここまで経済情勢を冷徹に分析し、非常に厳しい将来予測にも関わらず社員をなんとか雇用していくという姿勢には驚くばかりです。私自身が長年勤めた会社が経営陣の失態で経営不振となって早期退職と称して放り出されたという経験をしましたので、このような経営者も居ると言うことにはびっくりしました。ビルさんの会社に勤めていられたらどんなに良かったことでしょう。

現在の世界の経済はとんでもない状況になっていますが、これは著者の意見では「カジノ経済」となっているからだそうです。アメリカが主導して博打のような経済活動がどんどんと力を付けていき、それをグローバル化と称して全世界に押し付けています。TPPなども正にその一環のようです。

カジノ経済はベトナム戦争後に悪化した経済を立て直すという名目で固定相場制から変動相場制に代えた外国為替取引から大きく発展してしまいました。その後、株式市場もその資金力で席巻されてしまい、株を通して企業に投資するというところから大きく道を踏み外してしまい、短期的な儲けばかりを狙うような取引になってしまいました。さらに金融デリバティブというような金融工学という名前ばかりはまともなようで実際は博打としか言いようがないものがはびこるようになってしまいました。
そのような博打経済の結果として各国の財政は逼迫し、国民の経済格差が拡大し貧困層が増大してしまい、国際間の格差ばかりでなく国内の格差も大きく拡大して社会不安が増大してしまいました。このような事態は緊急に終わらせなければ社会全体の大混乱につながりかねません。

著者はこのようなカジノ経済の撲滅のために提言をしています。まず、外国為替の取引に課税すること。1981年にノーベル経済学賞を受賞したジェームス・トービンという学者が提唱したそうですが、外国為替取引に課税することで博打のような為替取引を抑制できるそうです。2007年には1日で36兆円の円が取引されたそうです。これに1%でも課税すれば年間132兆円の税収が得られ、今の日本の国債もすぐに返還できるそうです。それよりもとにかくその課税で博打的な取引を抑制して無意味な為替相場の変動を防げるということです。
さらに、金融デリバティブ取引にも課税し混乱を防ぐこと、有価証券取引税を復活することなど、これまで金融を博打に化してきた連中の意のままに変えられたきた制度を元に戻せという主張です。

本当にまともな意見を聞けたと思いすっきりとしました。これをもっともと思い実際に政治に活かせるような政治勢力が現れたら良いのですが。

本書のカバーにはオフィスで長靴姿で鍬をかついだ著者の写真が大きく載っています。食べる野菜くらいは自分で作ろうということで自宅のそばで家庭菜園をされているそうです。主張と実践、さらに広範囲の情報と知識を備えた非常に卓越した人だと思います。