このブログではこれまでにも「経済成長」を取り上げて色々と書いてきました。
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そこでは経済の成長というものの問題点、すなわち定常経済活動というものは認めても成長するという点で多くの害を作り出しているということを論じてきました。
本書も、その表題からこういった点について議論されていると思い手に取ったのですが、内容は少し違っていました。
著者はアメリカ在住で、グラーフ氏は作家、テレビ番組映画の製作者、バトカー氏は経済学者ということです。
そして本書の内容は言ってみれば「アメリカの経済と社会構造の問題点告発」ということです。
当然ながら問題点ばかりのアメリカ社会ですから、いくらでも取り上げるネタはありそうです。
しかし、「経済成長」そのものの問題点というものを論じた箇所はありませんでした。
そんなわけで、少し拍子抜けですが、論じている内容自体は結構参考になるようなことも書かれていますので、備忘録として記録しておきましょうか。
本書はアメリカ社会が標榜しているような能力次第で成功できる社会ではないということを、ヨーロッパ、特に北欧のような高福祉高負担社会と対比させて論じているようです。
もちろん、北欧社会の方がはるかに成功しているという判断のもとです。
日本についてはほとんど言及されていませんが、どうも読んだ感じでは北欧社会よりはアメリカ社会に類似しており、さらにどんどんとその方向性が強まっているようです。
アメリカの教育の質は落下し続けています。
子どもが将来成功できるかどうかは、どのような教育を受けられるかにより相当な影響を受けるのでしょうが、他の先進工業国では公教育はレベルが高くしかも無料か非常に安い料金で利用できます。
しかしアメリカでは公立の施設は劣悪であり良質な教育を受けようとするととんでもない高額な費用がかかり、事実上上流階級専用施設になっています。
公的施設の職員はたいてい最低賃金より少し上の程度の給与で働いています。
高等教育の場の大学などでもその質の低下は明らかです。
その授業料はとんでもない高額なものとなっていき、大学進学できる人々の比率は下がり続けています。
しかも、その大学自体の質の低下は甚だしく、学問分野の切り捨てが相次ぎその一方でフットボールスタジアムの建設に巨額の投資がされているそうです。
アメリカの政治の歴史でもアメリカ社会の衰退が論じられており、これまでの大統領を取り上げての論議がされていますが、一部の論者では賞賛されているレーガン政権も実際はアメリカをとことん堕落させた元凶とされています。
レーガン政権は規制緩和のレッセフェール志向の政策を取りました。
労働組合を弱体化させ、多くの経済部門の規制緩和を行ない、ソ連に「降参」と言わせるために軍事費を大幅に増加させました。(そして実際にソ連は降参したのですが)
そして富裕層の税金を大幅に削減させました。
レーガンはこのような富裕層優遇で経済成長を促し、多額の利益が上がれば社会全体に「トリクルダウン」するだろうとしたのです。(出た。ここにアベノミクスの源があった)
しかし、実際には連邦政府の負債と赤字は見る見る間に巨額に膨らみました。新たに富裕層に流れ込んだ冨は「トリクルダウン」などはせず、逆に「上方へ噴き上がった」ということです。(この表現は上手と思います)
また大企業は国内の製造工場をどんどんと閉鎖していき中国などに生産を移しました。
(トランプの言うように中国が元凶ではないことが分かります。あくまでもアメリカの大企業がやったことです)
レーガンがアメリカを良くしたという人もいますが、この本の著者たちから見れば「彼こそが大混乱への道を開いた張本人だった」のです。
本書最後に、これから自分たちが為すべきことを列挙してあります。
金融取引税の設立 先物・株式・債権購入などの投機行為に対して課税する
為替取引税の設立 外国為替取引に課税 これらは完全に投機と化している
FRIの制度見直し
利息制限法の復活 アメリカでは高利貸しが横行しているようです。
ヘッジファンドの規制
まあ、いちいちごもっともです。
それにしても、この恥ずべき状況のアメリカは日本の最近と酷似しているようにも見えます。
と言うより、この方向にすごい勢いで近づいているようです。安倍政権以来さらにそれが強まっているかのようです。
どうにかせにゃならん。
- 作者: ジョン・デ・グラーフ,デイヴィッド・K・バトカー,John de Graaf,David K. Batker,高橋由紀子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/05/10
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